2007年10月05日

「ステンドグラス」宮本雅弘 美術出版社

ステンドグラスの写真というのは、なかなか綺麗に写らないらしく、私が見た限りでは、ステンドグラスの写真集とかでも本当に綺麗なものは、ごく一部しかありません。

この本は、頁のほとんどを四分の三以上をステンドグラスの写真で占めていますが、そこそこ綺麗に写っている方に入ると思います。ただ、もう20年以上前の本であり、紙質のせいか印刷のせいかは不明ですが、発色自体はそれほどよくありませんでした。

その代わり、写真そのものは非常にはっきりと明瞭にデザイン・色合いを識別できるものが多く、その点では有用な部類に入ると思います。ステンドグラスだけ写っていても肝心のデザインを特定したり、判別したりすることができないと、本来のステンドグラスの面白さが半減しちゃいますし、せっかく図像学を学んで意味なくなっちゃいますから!

発色というか色合いは、いささか平板なのですが、十分に使えるステンドグラスの写真集だと思います。個人的には結構OK(笑顔)。

ただ、問題もあります。本書はこの手の本としては、尋常ではないほどステンドグラスを生み出した中世の歴史的・社会的背景に関する説明がついています。

プロの写真家ではあっても、その筋の専門家ではない著者が非常にたくさんの本を読んで勉強されて書かれているのは、そこの挙がってくる文献名から分かります。それらの文献は私も読んだことがある本が何冊もあり、著者が書きたいことも分かるのですが、時々明白に間違いではないか?と思う箇所があります。

途中までは、ふむふむと納得しながら読んでいると何故か結論がおかしいのです。例えば、「ゴシック建築を物質的な要素が大きく、キリスト教的に異端だ」とか著者は主張しますが、決してそんなことはありません。どうらや光の形而上学に関しては文献を確認されていないようです。文献を挙げられずに著者の思い込みで書かれている部分に、どう考えても誤りだろうと思われる部分が多いです。

著者はご自分の体験に引きずられてしまい、必要以上に民衆や職人に思い入れ過多となって、彼らが大聖堂建設の主役と位置づけているのですが、それも違和感を覚えずにいられません。勿論、宗教的情熱の高揚は必要な条件ではあったのでしょうが、それはロマネスク建築の教会で事足りたでしょう。何故、ゴシック建築なのか? それを裏打ちするキリスト教会側の論理をあまりに軽視しているように感じられてなりません。

正直言って、あまりその辺の知識の無い人が読んでうのみにしたら、まずいような誤りが多過ぎます。

その一方で、著者は現代における職人達を取材した体験や、ステンドグラスについての修復についての取材を通して得た貴重な情報も書かれています。これはまさに価値ある情報だと思います。

実に惜しいのですが、著者のゴシックに関する説明は、全て削って残りの体験や取材部分だけだったら、もっと良い本だったと思います。もし、本書を読まれる方はその点を注意して読まれた方がいいと思いました(老婆心ながら)。

でも、写真は本当にいいと思います。ベストではないですが、かなりベターな部類ですので機会があれば是非ご覧下さい。
【目次】
ゴシック大聖堂には民衆のキリスト信仰の魂があり、ステンドグラスがその存在を守っている

甦る新しい信仰が過去に類例の無い聖堂を生み出した

信仰に人間性を求めた聖母マリア崇拝

グラスの輝きを創造した庶民と職人

「よきソマリア人の窓」視覚的で現代的でさえあるステンドグラスの釉彩絵の構成

カンタベリー大聖堂と遍歴の建築家集団

教権が世俗権力より優位に立つべきことを主張して暗殺されたトマス・ベケット

ボーヴェー大聖堂、ゴシック建築の偉大な失敗

ザンクト・クニベルト教会

城館のステンドグラス

聖遺物崇拝と聖書外典

現代のインテリア・デザインの先駆を示すサント・シャペル

「施しの窓」生き生きと描かれた中世の人々の表情と生活

中世人を支配した世界終末思想

釉彩を緻密多彩にしたシルバー・ステインとヴェール・ドウブレ技法

ルネッサンス 釉彩専業職人の出現

グラスもまた風化による消滅の道を辿っている

明るくモダンでさえある草創期のグラス

現代のステンドグラス

大衆信仰を輝きに凝縮させた職人たち

遍歴修行をする職人たち

風化と破壊で消滅の道を辿っているステンドグラス

アトリエ・グリベール アトリエ54
ステンドグラス―大衆信仰を輝きに凝縮させた職人たち(amazonリンク)

関連ブログ
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「ステンドグラスによる聖書物語」志田 政人 朝日新聞社
「ステンドグラスの天使たち」志田 政人 日貿出版社
「世界ステンドグラス文化図鑑」ヴァージニア・チエッフォ・ラガン 東洋書林
「Stained glass(ステンドグラス)」黒江 光彦 朝倉書店
「ロマネスクのステンドグラス」ルイ グロデッキ、黒江 光彦 岩波書店
「シャルトル大聖堂のステンドグラス」木俣 元一 中央公論美術出版
ゴシックのガラス絵 柳宗玄~「SD4」1965年4月より抜粋
「聖なるものの形と場」頼富本宏 法蔵館
「Chartres Cathedral」Malcolm Miller  Pitkin
ゴシックということ~資料メモ
「中世思想原典集成 (3) 」上智大学中世思想研究所 平凡社
posted by alice-room at 18:59| 埼玉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
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