2005年08月21日

「名もなき中世人の日常」エルンスト・シューベルト 八坂書房

namonaki.jpg本書はドイツでのラジオ放送との共同企画で書かれた1冊の本を分訳したものの一つであり、「中世人の権力」「中世の聖と俗」の残り2冊を合わせた3冊で一つのものとなる。

本書で扱っているテーマとして、一つに中世における教会の実情と都市おける下層市民以下の人々の関わりが描かれる。中世キリスト教会のイメージは、判を押したような王侯貴族のような豪奢な上層部のみではなく、世俗の職業をかけ持ちしながら、細々と食いつなぐ現場での下級司祭など、いささか興味深いものが紹介されている。

私のイメージだと当時絶頂だったキリスト教的権威の下、まさか有り得ないと思ってしまう教会荒らしが普通に且つ頻繁に起こっていたというのも新鮮な驚きだった。いつの世でもそういう奴はいるってことですね。最近になって狛犬を盗んで売ったり、賽銭泥棒が生まれたわけではないのが分かります。

また、都市の市政に参画する権利の無い下層市民達も、領主様の命令に必ずしも無条件で従っているわけではなく、領主であっても相互に納得のいく形でなければその特権的な権利も行使することができなかったなど、市民側の抵抗権とでもいうようなものの存在も例証してます。ステレオタイプな中世民衆観は、物事の一面の強調に過ぎず、我々の知らない事柄も多くて楽しい。

犯罪とその処罰方法なども詳しく書かれており、「衣食足りて礼節を知る」の諺のように満足の給金の支払いのない雇われ司祭が、村の教会の乏しい財産を一切合財持ってドロンしたりとか、その犯罪の背景にも考察を加えている。また、都市の発展に伴う、首きり役人の収入の高騰と特権的地位への移行など、興味深い。

都市という構造自体が有する糞尿やゴミの処理なども、どうしてどうして詳しく述べられており、明らかに「環境」というものが認識されるのもそういった問題であることが分かる。娼婦に関する名称や市の公式行事に公費で呼ばれているのが面白かった。何の役に立つかは知らないが、その名称も下にメモしておこう。

さて内容はしっかりあるんだが、この本は値段が値段だし、それに見合っただけの内容があるかというと…さあ、どうでしょう?専門書ではなく、あくまでも一般書だけど、これを読んでどれほど多くの人が面白いと思うかな? 図版がパラパラと入っているのはいいけど、よほど興味のある人以外は面白いと思わないだろうなあ~。かと言って、研究者がこの本を読んでたら、ちょっと…って感じがするレベル。

失礼ないい方をすると、ネタはいいのに料理の仕方が下手。つまんないってとこでしょうか。これで高い金をとるのは、いかがなものか? 普通の人は、買ったら後悔するでしょう。図書館で借りて正解でした。残りの2冊もあまり読みたいと思わないな。

【メモ】
娼婦の呼び名:さすらいにヴィーナス、楽師の妻(楽師としばしば行動を共にしたため)、公の女(公の館が市営の娼家を表すため)、麗しの君

女教皇ヨハンナの伝説:
ローマで一女性が教皇に選ばれ、行列中に子供を産むに至ってようやく女性のであることが露見したというもの

中世ヨーロッパ万華鏡 (3)(amazonリンク)


posted by alice-room at 15:42| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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