2007年10月16日

「コンスタンチノープル征服記」ジョフロワ・ド ヴィルアルドゥワン 講談社

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キリスト教の聖地回復に向かう十字軍のはずなのに、同じキリスト教徒の国を侵略し、蹂躙し、略奪した第四回十字軍の参加者による体験記。著者はシャンパーニュ藩の家令職ジョフロワで、この十字軍遠征の中枢に最初から最後まであって、どのような思惑や経緯から今回の悪名高き行為が行われたかを自らの立場を踏まえて書いている。

ヴェネツィア商人に操られて犯した『類い稀なる愚行』として有名な本十字軍であるが、当事者が置かれていた政治・経済諸々の諸条件の元では、どうしてあんなことになっていったのか、本書を読むことでその一端が垣間見えてくる。あくまでも当事者の一方的な見方ではあることを割り引いても、世界史の教科書を読んでも絶対に分からない事情を知ることができ、大変興味深い。

まず、十字軍陣営は決して崇高な使命感に燃えた指揮系統の明確な一枚岩ではなかった。地域に群雄割拠している諸侯の緩やかな一時的な連合軍の域を出ず、それぞれが独自の判断をして行動する烏合の群れに限りなく近かったようだ。名目的なトップはいても基本は合議制であり、教皇の威令さえ、十分に機能したとは言い難い状況であった。

最初のヴェネツィア経由で舟で向かう段階から、独自にヴェネツィア以外の場所から海を渡る者達が多数おり、当初の計画が大幅に狂っている。その結果、十字軍陣営はヴェネツィアに舟の準備や渡し賃として約束した金額を払えず、大いに貸しを作ることになり、実質的な主導権もヴェネツィア商人の意向に沿う形でしか行使できない状況下に置かれる。

信義を重んじようとすればするほど、借金返済の為に聖地回復とは関係の無い場所への戦争へと向かっていったのが分かる。と同時に、コンスタンティノープル(現イスタンブール)内部の政権争いに便乗する形で正当な権利も無しに、侵略していく姿はまさに経済戦争以外の何物でもない。本書ではあくまでも『正義』の為にと強弁しているが、「大量破壊兵器」を所持しているからと言いがかりをつけて石油利権の為に侵略したアメリカ軍中心の多国籍軍と大差ない話だ。

その間にも不毛な経済戦争(侵略戦争)であることに気付き、この十字軍から脱落して帰国したりする諸侯が多数出る一方で、もっと欲深く勝手に別行動する為に十字軍から進んで逸脱する者など、およそ統一軍になりえていない姿が浮かび上がる。

著者自身は、それなりに真面目に聖地回復を願っていた思いが伺われるが、あくまでもそれは少数派であり、自らの利権確保が何よりも重要視されていたようだ。ローマ教会からの破門をちらつかせても一向に気にすることなく、諸侯は自由に参加・不参加を決めていて福音書の上で誓約した誓いさえ全く守られていなかったことが分かる。なんとも天晴れなキリスト教徒の軍隊なのである。

同時に洗練されたギリシア人(コンスタンティノープルの住人)と比べて、フランク人は野蛮人以外の何物でもなく、彼らの目にした「コンスタンティノープル」という都市は、世界有数の豊かで洗練された都であり、金銀財宝の塊であった。まさにそれ故に、それだけで略奪の対象になったらしいことが伺われる。

征服後も十字軍内部では利権や主導権を巡って内部抗争が激化し、自ら弱体化していく一方で、非征服者達や近隣諸国から反乱が起るのは当然の帰結だった。何しろ野蛮人のフランク人は略奪の限りを尽くし、禁止されていた教会内部においてさえ、聖画を引きずり落とし、十字架を破壊した。更に連れてきた娼婦を司教の椅子に座らせるなど非道の限りを尽くし、女子供は乱暴され、殺され、最後に都市に火を放った。貴重で壮麗な建築物、たくさんの人命がそうして失われた。

ヴェネツィア人達は貴重な聖遺物などをせっせと運び出していたそうだが、フランク人は持ち運べないものは全て叩き壊して火を放った。文化的な劣等国の住民に散々の仕打ちを受け、虐殺されておとなしくその支配に甘んじる住人はいない。後に反乱が起きるのは、誰であっても予想できるくらいだが、指揮系統がめちゃくちゃで私利私欲からなる軍にそれらを抑制する力は無かったようだ。むしろ進んでそれを餌にして、かろうじて軍らしきものを維持していた姿が真実のようだ。

本書には少し形勢が悪くなれば、脱落して帰国する者、逃げる者、敵に寝返る者などを批判した言辞が頻繁に出てくるが、よくもまあこんな軍で戦いができたとむしろその事実に驚愕を覚えるほどだ。

外部の敵よりも、内部の仲間割れに苦慮していた姿が本当に痛ましい。信義を重んじる者が一番馬鹿を見て、適当に要領よく立ち回っている者が一番の利益を挙げている姿が描かれており、いつの時代にも普遍であることを読んでいて痛感する。『正義』は建前でしか有り得ないようだ。

他にも感じたり、学んだことは大変多い。時代は古くとも人のすることに変わりはない。今の国連軍や多国籍軍と同様、表面的な物の見方ではなく、本質的な側面を見る必要性を痛感した。勝ってこその正義であり、自らの利権に基づく建前の「正義」しか有り得ないことは時代を超えた普遍性を有するらしい。

個人的には世界史としてではなく、政経の内容だと思うんだけどね。歴史としてよりも政治史として読むと、より面白いです。かなりお薦め!

ちなみに、こうして奪われた膨大な量の聖遺物がヨーロッパに流入し、各種大聖堂などで宝物として珍重された訳である。

また、あの神の聖域たる『シャルトル大聖堂』などのゴシック建築を作り上げた信心深いはずのフランク人は、そのすぐ後に、神をないがしろにしたこういう大虐殺をしているのも歴史的真実である。

人とは、つくづく不可解な生き物だと思わざるを得ない・・・。

本書からの抜き書きメモはこちら
【目次】
序文
第1章~第116章

解題
詳細目次
関係年表
文献案内
地名索引
人名索引
コンスタンチノープル征服記―第四回十字軍(amazonリンク)

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「十字軍の精神」ジャン リシャール 法政大学出版局
「十字軍」橋口 倫介  教育社
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「コンスタンティノープルの陥落」塩野 七生 新潮社


posted by alice-room at 19:34| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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