2007年11月15日

「イギリス大聖堂・歴史の旅」石原孝哉、内田武彦、市川仁 丸善

igirisudaiseidou.jpg

率直に言って想像以上に良い本でした。私の思い込みでは、どうしてもゴシック大聖堂というとフランスが筆頭に挙がり、イギリスの大聖堂というといささか亜流的なイメージがあったのですが(エミール・マールの影響かな?)、そのイメージを修正すべきかも?っていう気持ちになってきました。

本書は、イギリス国内に散らばっている大聖堂の中から幾つかをピックアップし、その発祥から現代に至るまでの歴史を概観しながら、数々のエピソードを語る形式で話が進んでいきます。

三人の共著ですが、それぞれ英文学を専門にしている方のようで、歴代の王の名前に負けず劣らず、文学者や作家などの著名人が頻出します。大聖堂に国王や数多くの著名人の墓があるからですが、国王や聖人はともかく著名人が出てくるのは、彼らの職業柄でしょう♪ 

個人的にはその辺りにあまり関心はありませんが、何よりも全体として著述のバランスが良くて読んでいて違和感ないし、興味深いです。

建築関係の話は全く物足りないものの、英国の聖人や聖堂にまつわるエピソードはほとんど知らなかったので本書で初めて知る内容が多くて実に楽しい♪

英国で大聖堂を見てまわる入門書としては、最適かもしれません。本文全体にも幽霊とか古いもの好きの英国趣味が溢れていて、やっぱりイギリスってこういう国なんだと改めて思わされます。

また、著者達は実際に訪れた際に現地でのガイドなどに質問していろいろと生の伝承を聴きだしているのがポイント高い。いかにも噂話的な眉唾ものもあるが、だからこそ面白い。

逆に言うと、その辺はご専門ではないせいか、あまり事前に調べたり予備知識はないままで取材しているように感じられる部分がある(文章からだとね)。ただ、それがいい方向で出ていてあまり知らない人が読んでも分かり易く軽く読める長所として仕上がっている。

観光ガイドでは、内容が無さ過ぎだし、かと言って詳し過ぎる個別テーマの本(ゴシック建築、英国史、聖人伝等)を読むのが大変という人には、うってつけの本です。

参考文献も書かれているので、これを出発点にして更にいろいろ調べていってもいいかもしれません。実に面白い本でした(笑顔)。

以下、幾つか本文から引用。
身廊はラテン語で「舟」の意味を表す言葉である。キリスト教の初期の頃は、教会はノアの箱舟を象徴する舟と考えられていた。キリストは舵取り役で人々はキリストが操る船に乗り込んで人生という大海を渡ってゆくと考えられていた。
身廊を『舟』というのは、しばしば聞きますが、キリストが舵取り役という説明は、私初めて聞きました。そこまで言い切った文章は初めてです。ちょっと何か他の本で確認したいなあ~。ゴシック建築やキリスト教絡みの本でも、私が目を通した限りではそういった表現は無かったんだけどね・・・。舵の無い舟に乗って、神に委ねるというのはよくあるけど、微妙にニュアンス違うような気がするんだけど・・・。疑問?
旧セント・ポール大聖堂所有の聖遺物:
初代ロンドン司教聖メリトゥスの腕、聖母マリアの乳の入った水晶の小瓶、巡礼者ヨハネの手、聖トマス・ア・ベケットの頭蓋骨の破片、イエスの小刀、マグダラのマリアの頭髪、聖エセルバートの頭、聖パウロの血液
『英国民教会史』を書いた修道士ビードによれば、エセルバートはキリスト教徒に会うときは必ず広々とした屋外で会見したが、これは彼がキリスト教徒は恐ろしい魔法を使う超人的な能力の持ち主と信じていた為と言われている。

 布教の方法も、現代人から見ればかなり強引で、たとえば異教徒を武力で脅して川に追い込み、上流から聖水を注いで「洗礼」と称した。やるほうもやるほうだが、このような暴力的な洗礼を受けた者が、これで自分はキリスト教徒にされてしまったと信じたという。
こんな布教方法は初めて聞きました。さすがはカトリックですね。こうでもしないと信者にならないんでょうが、やっぱり『力』なんですね。神秘の力、って♪
ノリッジの聖ウィリアム:
聖ウィリアムはイギリス各地で行われたユダヤ人による儀式殺人の最初の犠牲者である。当時のイギリスには「ユダヤ人は宗教的儀式にキリスト教徒の犠牲を捧げる」という俗説があり、各地に「ユダヤ人に殺された」とされる犠牲者が現れた。

 伝説によれば、1144年のこと、ノリッジのユダヤ人はイースターの前にひとりのキリスト教徒の少年を買い求めた。皮革業者の徒弟であったという。ユダヤ人はイエス・キリストが受けたのとまったく同じように彼を拷問した後、キリストの礫を記念する聖金曜日に十字架にかけて殺害し、その後、土に埋めた。だが、彼は死後、数々の奇蹟を起こし、やがてノリッジの聖ウィリアムとして知れ渡ることになる。
ユダヤ人の儀式殺人の噂は有名ですね。十字軍に向かう途中で、ユダヤ人達を襲った理由としてもよく挙がられています。
ここで興味深いのは、このペリカンの書見台です。朝な夕なの祈りの折に、この上に聖書を広げて、朗読するのです。この鳥はペリカンでこのように自分の胸をつついて血を出し、それをわが子に与えるのです。これは私たちの為に死んだイエス・キリストの象徴でもあるのです。
本書では、あまり馴染みがないような書き方だったが、この象徴的解釈は、非常に有名で基本のはずだから、やはりその分野はあまりお得意ではないようだ。
リンカン・インプ:
地元の宝石商ジェイムズ・アッシャーはインプの独占使用権を得たが、王室びいきの彼は、このインプをかたどったタイピンを皇太子時代のエドワード八世に献上した。皇太子はこれを気に入り、よく身に付けたがあるときこれをつけた皇太子が競馬で大勝した。以来、これは幸運のインプとして人気を集め、インプは飛ぶように売れた。もちろんアッシャーは大金持ちになった。美術品のコレクターとしても名高い彼が、遺品を社会に還元しようとして建てたのが有名なアッシャー・ギャラリーである。
確か、このインプの話は大変有名でBBCか何かで英文の記事を読んだ覚えがあります。うちのブログでも取り上げた気がするのですが、見つかりません?
【目次】
第1章 大聖堂ことはじめ
大聖堂の歴史

第2章 ロンドン・イングランド南東部
セント・ポール大聖堂
サザック大聖堂
ロチェスター大聖堂
カンタベリー大聖堂
ウィンチェスター大聖堂

第3章 イングランド東部
ベリー・セント・エドマンズ大聖堂
イーリー大聖堂
ピーターバラ大聖堂
ノリッジ大聖堂

第4章 イングランド西部・南西部
ソールズベリ大聖堂
ウェルズ大聖堂
グロスター大聖堂
ヘリフォード大聖堂
ウエスター大聖堂
エクセター大聖堂

第5章 イングランド中部
サウスウエル・ミンスター
リンカン大聖堂
リッチフィールド大聖堂

第6章 イングランド北部
ヨーク・ミンスター
リポン大聖堂
ダラム大聖堂
そうそう本書で挙がっていた参考文献で私が今度読んでみようと思ったもの。
・「中世イングランドと神秘思想」内田武彦 山口書店
・「イングランド文化と宗教伝説」ノーマン・サイクス 開文社出版
・「イギリスの大聖堂」志子田光雄 晶文社
・「イギリス中世文化史」富沢霊岸 ミネルヴァ書店イギリス大聖堂・歴史の旅(amazonリンク)

関連ブログ
「芸術新潮 2007年04月号 イギリス古寺巡礼」
「聖遺物の世界」青山 吉信 山川出版社
リンカーン大聖堂がダ・ヴィンチ映画で10万ドルもらう
posted by alice-room at 20:26| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん

新年おめでとうございます。今年もまた書評を楽しみにしています。

'nave'ですが、年末にO.E.D.を置いてある図書館に行って調べてみましたが、ラテン語のnavisが語源でイタリア語・スペイン語経由で17世紀になってから英語に入ってきたこと、「教会堂において、入り口扉から内陣に向かって伸びる主要部分、通常列柱で両側の側廊と隔てられている」という定義以外はとくに目新しいものは書かれていませんでした。

それでもラテン語版『航海』でも二度ほど、神がブレンダン一行の舵取り役、船頭だという言い方が出てくるので、なにかしら典拠があるかと思います。
Posted by Curragh at 2008年01月05日 21:52
Curraghさん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

naveの件、情報本当にどうも有り難うございます。17世紀と結構遅く英語に入ってきた言葉なんですね。中世には、既に英語として定着してたんだろうと誤解していたので新鮮な驚きです! ということはキャクストンが訳した英語版「黄金伝説」とかだと時代的に「nave」という単語はまだ出てこないのかもしれませんね。全然意識してなかったので、面白いです(笑顔)。

もし、他にもまた何か発見された時は、大変厚かましいお願いですが、教えて頂けると大変嬉しいです(お辞儀)。

今年もお互いに興味深い本がたくさん読めると素敵ですね♪

Posted by alice-room at 2008年01月06日 09:01
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

『イギリス大聖堂・歴史の旅』
Excerpt: 以前、志子田光雄・富壽子夫妻の好著『イギリスの大聖堂』を読んだことがあるが、こちらは一昨年刊行された英国版古寺巡礼ものの最新刊と言っていいでしょう。 この本は、本邦の英文学者三名が英文学の文士た..
Weblog: Miscellaneous thoughts
Tracked: 2007-11-24 23:34