2007年11月18日

「ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊」立花隆 文藝春秋

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相変わらず、この人の考え方は私にとって生理的拒否反応が出てしまう部分(本を情報の為の道具として割り切って接している姿勢等々)があり、好きか嫌いかというと間違いなく嫌いなのですが、『本を読む』という一点において、この人は傑出した人物だと思うし、本書も有用な情報を持っていると確信します。

最初に言ってしまえば、ジャンルを問わず、情報を得る為に本を読む人ならば、絶対に目を通すべき本だと思います。但し、誤解してはいけないのですが、最初から最後まできちんと読む本ではありません。まして、立花氏の本を他にも読んだことがあるならば、ご存知の通り、かなりの重複がありますので斜めに目を通すべき部分が非常に多いです。

と、同時に同じような文章の中で微妙に違ったことを言っていて使える部分もあるのでそれを手早く見分けながら、読まないと時間がもったいないのも事実です。

本書で有用な部分ですが、特に参考になるジャンルは明白にノン・フィクションであり、ざっと列挙された「書名」と一行から数行の内容説明でしかありませんが、その書物の選択が実にイイ! 

膨大な本を読んでいるうえに、それぞれのジャンル毎で使える本と使えない本をきちんと分かっている(であろう)と感じられるセレクションこそが、本書のポイントでしょう。基本且つ有用である本か、ある特定の点で有用である本を見事に『選択』していると思います。

何故、そんなことが言えるかというと、自分が知っていて使える本だと思う「良書」がまさにこの本の中でも多数挙げられていて、著者の選択眼に同感できる点が多々あるのですよ~。嫌なことに・・・。

是非、皆さんも自分の関心のある分野や詳しい分野の本で、立花氏のセセレクションを確認してみて下さい。それで納得がいくなら、おそらく自分は知らない分野について挙げられている本も使える本なんだろうと信頼ができますから。

本書を読む意義としては、上記のように自分の不案内なジャンルの基本となる本や使える本を知る目安に使えることが一点であり、更に、自分が知っているジャンルでもしかしたら取りこぼしている(見落としている)本を見つける契機になるかもしれないのも大切な点です。

この二点の為にも、是非目を通してみることをお薦めします。但し、人が選ぶ以上、絶対にその人のバイアスがかかっていることはお忘れなく! それを理解したうえで、いかに本書の中で使える部分だけを素早く選択するか、それが肝要です。

本書を読んだだけでは、別に意味があるとは思えません。本書を使って効率良く自分に有用な本を見つけ出し、生かしてこそ、本書の価値が生まれます。きっと!

本書だけ読んでも無意味でしょう。あくまでも使う為の本だと思います。個人的には、あまり好きではない考え方ですが、ノン・フィクション関係には非常に大切且つ有用な方法論ですので、本書を読むなら、必ず次の本へつなげること。

そもないと、そこそこ分厚い本書を読む時間だけ、人生の浪費です。逆に本をドンドン読んでいく予定があるならば、本書の価値は幾何級数的に増大するでしょう。

ここで話が変わる。本文中で思わず頷いた部分について。
早読みと早書きの間を結ぶ能力として、もうひとつ大切なのは、「早呑みこみ」です。資料をゆっくりと読んで、事情をすっかりつかんでから取材するのでは遅すぎます。だいたいわかったところで、いかにも事情を通じている風をよそおって、取材に行かなければならない。取材で聞く話の中に、よくわからないところは、あとで大慌てで調べる。次の人を取材する時には、大慌てで調べた生煮えの知識を、さも前から知っていたかのごとく装って相手にぶつけ、さらに取材を深めていく。こういう、「半可通能力」を身につけなければならないわけです。
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半可通になることは、ジャーナリズムの世界でどうしても身に付けなければならない能力です。しかし、それで満足してはいけない。しかし、半可通でいれば仕事ができてしまうのがジャーナリズムの世界です。そういう状況に身も心もスポイルされて、半可通で大口を叩くことだけをもってよしとする鼻持ちならない人間がジャーナリズムの世界には多すぎます。
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これは、まさに私がいつもマス・メディアに感じていたことであり、やっぱりそうなのかと納得させられた。と、同時にどこの世界も同じなのだなあ~と感じさせられた。

というのは、私もバイヤーをやっていた頃、まさにこの『半可通』をやっていたからだ。これができない人間はバイヤーとしては下の下だが、まさに半可通で終わっている人間が実に多い。そういう人は、勤続年数だけ多いが、バイヤーとしての知識や経験が上っ面だけで、出来る人や本物の人にはすぐばれてしまう。

逆に、真のバイヤーに育つ人は、『半可通』で得た知識をその後、徹底的に調査して更に理解を深め、複数の業者と関わりつつ、ビジネスを継続していく事で学んでいき、専門の職人と対等に素材や加工技術の話をできる水準にまで伸びていく。

他社のバイヤーからも情報や教えを請われると共に、職人や製造メーカーからも一目置かれる存在になるのだけれど、そんな人は私が知っている中では二人しかいなかった。後は、10年経っても何もできない、誰とも代替のつくレベルで終わってしまう。私の乏しい経験からも大いに共感できる話でした。

以下、本書の中で見て、私が今後読もうと思った本の一覧。本文より引用。
・大航海時代叢書シリーズ『インディアス史』ラス・カサス
スペインという国が、南米の原住民に対してどれほどめちゃくちゃな支配をしてきたかを書き綴ったもの。
・『インディアスの破壊についての簡潔な報告』岩波文庫
ラス・カサスっていうドミニコ会の坊さんがあまりにもひどいというので本国へ報告を出したもの。
・『イエズス会士日本通信』
日本にやってきたイエズス会士が本国の総長に送っていた報告書


・『世界神秘学事典』荒俣宏 平河出版社
全体的な見取り図を与えてくれるもの
・『ヘルメス叢書』白水社 
基本文献となるもの
・『ヘルメス文書』荒井献、柴田有 朝日出版社

・『口語旧約聖書略解』『新約聖書略解』日本基督教団出版部
比較的感知名注釈書

・『ハーディス』牧野信也 中公文庫、第三巻「聖戦」の項
ジハードで死ぬこととは、イスラムでは最大の宗教的功徳とみなされる。ジハードで死んだ者は殉教者となり、アラーの神により天国にあげられると決まっているのである。
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天国に行ったものは誰も現世に帰りたいとは思わないが、殉教者だけは別で、神から殉教者に与えられる恩寵のあまりの篤さに驚き、「現世に戻り、さらに十回死ぬくらいなんでもないのだ」

・『行動ファインアス』ダイヤモンド社
行動ファイナンスとは、数年前にアメリカで生まれた経済学と心理学の境界領域(融合領域)の学問で、資本市場で投資家がどう行動するかを研究する学問。
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効率的市場仮説にそぐわない投資化の非合理的行動がどこからうまれるのかが行動心理学によって分析されていく。

・『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』作品社
自分自身がそのような不適応者の一人であり、その不適応者にまじって生き続ける中で、「人間社会における不適応者の特異な役割」という、彼の生涯を通じての思索テーマを発見する。「人間の独自性とは何か」ということを考えつめていくうちに、「人間という種においては、他の生物とは対照的に、弱者が生き残るだけでなく、時として強者に勝利する」ということだと思い当たる。つまり、「弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えている」のである。そして、アメリカを作った開拓者たちというのも、実は社会的不適応者であったが故に、家を捨て荒野に向かわざるを得なかった放浪者たち(弱者)だったのであり、それがアメリカ社会の独自の特質をもたらしているという考察にも導かれていく。

・『魔術的芸術』アンドレ・ブルトン 河出書房新社
原始時代に始まり、古代、中世、近世、現代、あらゆる時代を通じて魔術(呪術)をモチーフにして作られた絵画、彫刻、宗教的儀式用品、装飾品等、あらゆる美術作品を集大成した上に、ブルトンの魔術(呪術)論を展開した、きわめて興味深い本。

・『天才と分裂病の進化論』ディヴィッド・ホロビン 新潮社
精神分裂病の遺伝子こそ人類進化史上の最も大きな飛躍(サルからヒトへ)をもたらした遺伝子であり、その後の人類史においても、芸術、科学、哲学、宗教、政治などさまざまな局面において数々の飛躍を生んだ有名、無名の天才たちを生んだ遺伝子だ、という仮説。

・『敗戦真相記』永野譲 バジリコ株式会社
この本は日本の敗戦の最も優れた敗因分析である。
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何といっても大きいのは、マネージメント(経営能力)の差だという。マネージメントにおける科学性のなさ=非能率、非効率が兵器における科学性の欠如よりはるかに大きな敗因になっているという。

・『脳が殺す』ジョナサン・H・ピンカス 光文社
殺人者は何故人を殺すのかを真面目に追求した本である。著者は神経内科医で、長年にわたって、特異な殺人者の精神鑑定をしてきた。二十五年にわたり、百五十人の殺人者を鑑定したというから、この分野では比類ない研究実績を持つといってよい。その結果たどりついたのは、一般的な単純殺人者とちがって、大量殺人、連続殺人、殺し方が冷酷無惨など、人の目をそばだたせるような特異的な殺人は、ほとんどが「幼児の被虐待体験」「精神疾患」「脳の神経学的損傷」の三つの要因を重複して持つ殺人者によって犯されているという結論である。

・『中国性愛文化』青土社
中国の性文化のあらゆる局面にわたり、紹介される資料の豊富さには圧倒的なものがある。中国の性の三大奇形現象といわれる、娼妓、宦官、纏足についてもこれまでになく詳しい。
たとえば、男が纏足の女性を愛撫して楽しむのに四十八種の法があったといい、そのすべてが解説されている。
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宦官になる為の局所背所術についても詳しい。

・『ヨーロッパ古層の異人たち』芳賀日出男 東京書籍
芳賀が何年もかけて取材してきたヨーロッパ各地の伝統的な祝祭にあらわれてくる、ヨーロッパ文化の最古層に横たわる、キリスト教以前のゲルマン、ケルトの伝統に遡る習俗の写真中心の報告である。
実は、まだあと100頁くらい残っているがとりあえず、忘れないうちにメモ。ここの部分は追加予定。

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【追記】
・『裏切りの同盟』ロバート・ベア NHK出版
アメリカとサウジアラビアとイスラム過激派について書かれた本。
著者はCIAの調査・工作官として、ニ十年以上にわたって主として中近東で働いてきた。おとり捜査のため、石油の密輸、武器の密輸までしたこともある人なので裏情報がふんだんに盛り込まれている。
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世界一の産油国、サウジアラビアには、ほとんど天文学的な石油マネーが日々流れ込んでくるが、それを自由にできるのは、ほんの一握りの王族を中心とする特権階級の人々で、国民全体の生活向上にはほとんど使われない。王族は外国旅行に行くと、毎日億単位の金を使って、女を買う、カジノに入り浸る、酒と美食におぼれる、贅沢品を買いまくるなど、あらゆる種類の腐敗行為に熱中する。ところが、国民の生活水準は下がる一方。一般国民レベルでは不満が暴発寸前になっている。一方でイスラム原理主義的な教育を行うマドラサ(イスラム宗教学校)が全国にでき、そこを卒業してイスラム過激派に身を投じる若者がふえた。彼らは王族の腐敗生活に強く怒っており、サウジで革命がいつ起きても不思議ではない情勢になっている。この情勢変化に気付いた特権階級は、過激派を買収しようとして、あるいは過激派から脅されてやむをえず、過激派にどんどん資金を流している。これが、イスラム過激派にサウジから膨大な資金が流れる理由だ。

・『アレクサンドロス大王物語』伝カリステネス 国文社
ヨーロッパで中世以来聖書に次いで広く読まれたという物語で虚実ない交ぜの面白いアレクサンダー伝説がたくさん載っている。

・『諜報員たちの戦後』斉藤充功 角川書店
陸軍中野学校の卒業生たちが戦後六十年目にしてようやく語りだした戦後の生き方である。陸軍中野学校はその前身の組織を含め7年間だけ存在し、二千百三十一名が卒業した。大半が戦争の時代を生き延びたわけだが、多くの者はいまだに「黙して語らず」の中野学校の遺訓を守り、問われても口を開こうとしない。
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終戦時、陸軍中野学校は群馬県富岡町にあり、本土決戦後、国内遊撃戦に転じる計画を立てていた。全国いたるところで地下に潜り、機会があればいつでも地下から湧き出てゲリラ戦を展開する計画だった。敗戦後は、占領軍の監視を続け、将来の国家再建にそなえるべく、一人一人、校長から秘密司令を受け、秘密通信法が伝授され、秘密の工作資金も渡されていたという。

・『生命科学』羊土社 東京大学教養学部理工系生命科学教科書編集委員会編
分子生物学、細胞生物学、発生生物学の全領域にわたって、最新の知見を実に要領よくまとめている。
他にもまだまだあるが、とりあえずこの辺を読んでいこうと思う。

関連ブログ
「ぼくはこんな本を読んできた」立花 隆 文藝春秋
「脳を鍛える―東大講義「人間の現在」」立花 隆 新潮社
「ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術」立花 隆 文藝春秋

しかし、嫌いだという割には何冊も立花氏の本、読んでるな私も(苦笑)。
ラベル: 書評 読書術
posted by alice-room at 22:18| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 本】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
正直、私も嫌いです。どうも相性が合わない。
Posted by 愛書家 at 2008年04月14日 01:08
私の周りの人では、立花氏を好きだと言う人皆無でした。
Posted by alice-room at 2008年04月14日 21:12
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