
しばしば中世キリスト教絡みで名前だけは聞いていたのですが、いつか読んでみたいと思っていて著者が種村氏ということもあって読んでみました。
12世紀に現れた女性幻視者ヒルデガルト。聖書を読むこと以外、神学理論などは全く習ったはずのない女性が病の床で見る幻視の数々。しかも強烈な聖職者の堕落批判を伴っていたのにもかかわらず、教皇からのお墨付きを得てしまう。
当時、カタリ派の存在で厳しい批判に晒されていてカトリック側の事情が、この女性の幻視を公式に認めた背景に大きく影響しているが、私だったら、特に知りたいと思うその辺の事情については、本書では軽くしか触れられていない。
本書が扱うのは、タイトルが一番適切に内容を表しているが、あくまでも一女性幻視者としてのヒルデガルトであり、彼女がどういった環境で育ち、どういった行動をし、著作の内容、また、著作に見られる諸般の影響と独自性、等々。そういったことが非常に多角的な視点から、再構成され、当時としてはかなり特異な存在であった彼女の姿を描き出している。
私は本書で初めて知ったが彼女は単なる幻視者としてだけではなく、数々の自然科学や医学、精神医学に関する内容を持った本を残しており、そうした観点からもまさに特別な『例外』であったようだ。
また、終始一貫して病気に悩まされ、常に死と紙一重の状況で物凄く長生きするのも不思議としか言いようがなく、その状況故に、幻視者で有り得たのではないかとも思われる。
非常に内容は盛り沢山で、そういった視点で関心があれば、かなり面白いはずですが、私はあくまでも中世キリスト教に対する影響とか、神学理論への関与等に関心があったので、その意味では本書はほとんど役立たなかった。つまり、私的には全然面白くなかった!
本書でも紹介されているが、私の視点で見るならば、ヒルデガルトの著作そのものである「スキヴィアス」(中世思想原典集成15『女性の神秘家』)を読んだ方がはるかに良かったかもしれない。今度、機会があればそちらを読むかも?
ちなみに言うと、本書は雑誌「イマーゴ」に連載されていたものをまとめたものである。そう、あの雑誌である。私の友人の心理学者に言わせると、「心理学とか思想っぽい・・・雑誌」というアレである。
その辺の事情を理解すると本書の内容も分かるような気がする。本書は幾つかの賞もとってるそうだが、「正直どうよ」ってカンジ。私は、あまりにも退屈で後半はかなり飛ばし読みにした。基本的には、お薦めしません。いい加減な悪い本ではないんですけどね・・・。
【目次】ビンゲンのヒルデガルトの世界(amazonリンク)
十字軍と幻視者
光り輝くもの
ルチフェルと宝石
教皇の認可状
卵と車輪
二人の娘
赤ひげ王バルバロッサ
花咲く女子修道院
光と音響
知られざる文字
ラインの魚類学者
女庭師の帰還
病気の治癒力
ジグヴァイツァ共同治療
メランコリアの涙
性と睡眠
風の薔薇
彼岸の王国
ヒルデガルト年譜
家系図
参考文献について