
原著者の本書執筆の目的は、「印刷本がわれわれに何を語るか、つまり、物質としての書物に現れるさまざまな証拠がどのように解釈できるかを、関心のある一般読者に示すこと・・・」だそうです。
実際、本書では具体的な例を挙げつつ、キャクストンに関する書誌学的な問題(英国で最初の印刷を行った年・場所等)がどのように変遷してきたのか、現在、どこまで分かっているのかが根拠を示しつつ、紹介されています。
しかし、いやあ~実に細かい話です。最新の科学技術などが調査に利用されて初めて分かってきたことなど、興味深いのですが、私には相当退屈だったことも事実。読んでいて実に眠たいこと&眠たいこと。
翻訳者が高宮氏だし、出版社があの雄松堂、しっかりした内容であることは間違いないのでしょうが、一般読者としては結構、読破するの辛いかも?
分量はさほどでもないですが、あまりにも細かい学術的議論で関心がついていきません。個人的にはキャクストンに関するもっと一般的な知識や既に確定している彼の英文学への影響等、基本的な事実を知りたかったんですが・・・。その辺についての説明は、物足りませんでした。
というか、本書の読者としては、その辺を知っていて当然として話が進められているような気もします。私の基礎知識不足なのかもしれません。本書を読まれる方はその点は事前に考慮しておいた方がいいと思います。先日読んだグーテンベルク聖書の本とは、全く違いました。
日本では、かなり読者層のパイは小さい感じかもしれません。
最後に、書誌学者だけは目指さなくて正解だったと心の底から思いました。裏写りした汚れ、と見まごうばかりの部分にキャクストン固有の活字の裏移りを見つけるなど、あっ、細か過ぎ・・・! 私には無理です、やっぱり。この手の細かいこと苦手なもんで。
【目次】キャクストン印刷の謎―イングランドの印刷事始め(amazonリンク)
用語解説
参考家系図
1 ウィリアム・キャクストン
2 初期印刷本の調査
3 オクスフォード伝説
4 18世紀のキャクストン学
5 ウィリアム・ブレイズ
6 1976年のキャクストン祝祭行事
7 1877年から1976年にかけての研究調査
8 英国図書館インキュナビュラ目録の現在の研究
9 キャクストンのタイプ3の導入
10 『哲人の箴言金言集』の年代決定
11 キャクストン本の調査の続き―彼の庇護者
12 印刷本を扱う商人としてのキャクストン
典拠作品と文献
訳者注・訳者解説・おわりに・索引
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「さまよえるグーテンベルク聖書」富田修二 慶應義塾大学出版会
「グーテンベルクの謎」高宮利行 岩波書店
「グーテンベルクの時代」ジョン マン 原書房
印刷革命がはじまった:印刷博物館企画展