2007年12月17日

「愛書狂」鹿島茂 角川春樹事務所

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十九世紀ロマンチック挿絵本のコレクターである著者による、蔵書紹介&書誌学的解説の本です。

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口絵として紹介されている挿絵がなんとも美しいのには、目を惹かれずにいられないでしょう! 本書自体が装丁にかなり凝った造りになっており、マーブル紙を初めとして豊富な白黒図版と共に、目で見て楽しめる本になっています。

ジャンル的には私の対象外だし、美しいなあ~と思う反面、私的嗜好からするとわざわざコレクションしたいと思うものではないものの、著者の古書に対する熱い情熱には、大変共感を覚えてなりません。

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実際、書誌学的な内容を初めとして、実体験に基づく収集家ならではの視点からの説明や体験談は読んでいてもとっても楽しい♪

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『書物愛』という嗜好を有する同好の士には、おそらく共感できる点は多々あるとあると思う。何を置いても、まず本であり、相場よりも安く可能な限り質のいい本を獲得するというのは、ある種の習性と言っても良いだろう。たとえ、同じ本を既に持っていてもそれは関係の無いことであり、何冊あっても良いのだ!

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かくいう私も黄金伝説は、初版で完全版一組、部分で重複3冊とか持っていて、おまけに版元変わった新装版一組にe-books、英語版ハードカバー一組を持っているが、そんなのどうでも良いことなのだ。
(今度はラテン語版とか欲しいなあ~とか考えていることなど、関係ないのである)

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とにかくそういうのは、抜きにしても学ぶところの多い本である。個人的には綺麗な本がお好きな方にお薦めしたいが、タイトルだけはやや誇張があるようだ。著者が書物愛好家であることは納得するが、これぐらいで○○狂とは言えないだろう。この世界はもっと&もっと奥が深い世界だと思うし、少なくとも生活崩壊か人格崩壊するぐらいまで突っ走ってから言って欲しい!な~んて、凡夫の私は思ってしまったりする。

それぐらい、個人的には愛書狂というかビブリオマニアは尊敬しているんですけど・・・。

以下、個人メモ。
「ノートル=ダム・ド・パリ」ユゴーの小説は中世の建築や習慣についての脱線が多い。
この絵の原画を描いたルイ=シャルル=オーギュスト・ステネーユはストラスブール生まれの画家で後に建築家ヴィオレ=ル=デュックの協力者として中世教会、とりわけサント=シャペルの修復に尽力した。
← よし、今まで興味なかったけど、今度探して読もうっと!

古書コレクターのほとんどは多かれ少なかれ運命論者である。ほしかった古書が手に入るも入らないも、すべては偶然が支配すると考えている。だが、そのいっぽうでコレクターは「意思」の人である。強い意志をもって古書を求めれば、かならずや、それは手に入るとも信じている。その一方で意思を実現するには、普通の人にとっては貴重な何かを犠牲にしなければならないという覚悟ももっている。金、財産、家族、恋愛、娯楽、美食等々、一般人にとってなによりも優先されるこれらのことをコレクターは諦め、そこで犠牲にされた時間、金銭、エネルギーをコレクションの形成に投入する。・・・・
気をつけましょう。決して他人事で笑い事ではありません! 幸い、そこまでの情熱がない軟弱者だから、良かったけどね、私は。

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【目次】
パリの悪魔―ロマン主義時代の代表的挿絵本
フランス人の自画像―十九世紀最高の風俗観察文集
ジャック・サン=ヴィクトール タブロー・ド・パリ―特殊な腐食銅版で描かれたパリ
パリとその近郊のピクチュアレスクな景観―風景画感覚のロンドン製パリ都市景観図
エミール・ド・ラ・ベドリエール 新しいパリ―オスマン改造後のパリ二十区
ルイ・モラン パリの日曜日―ルベールのエッチングに価値あり
ラ・フォンテーヌの寓話―古今東西比類のない、グランヴィルの動物画
動物達の私生活・公生活情景―グランヴィルの最高傑作
もうひとつの世界―シュールレアリスムの先駆
ジェローム・パチェロ、社会的地位を求めて―嫌悪を通り越し、悟りに達した挿絵
フルール・アニメ―亡き妻を冥府より甦らせようとした遺作
エトワール―グランヴィル、最晩年の作品
野菜の王国ー珍本中の珍本
パピヨン―黄金時代の飾る本
いずこなりと、お望みの国への旅―ジョアーノを忘れることなかれ
鉄道風刺手帳―微細なものの巨匠の珍品
百と一のロベール・マケール―数少ないドーミエの挿絵本
ミュゼ・ダンタン―影絵の肖像ギャラリー
ミュゼ・フィリポン、あるいはフィリポン・コミック百貨店―フィリポン本の集大成
現代の顔―写真家ナダールの似顔絵画家時代
ノートル=ダム・ド・パリ―挿絵「芸術」の結晶
れ・ミゼラブル―挿絵による大河小説
家なき子―子供達へのエッツェルの贈り物
さまよえるユダヤ人―天性挿絵画家ガヴァルニの傑作
あら皮―コレクター人生の象徴の書

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「書物の敵」ウィリアム ブレイズ 八坂書房
「世界古本探しの旅」朝日新聞社
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
posted by alice-room at 20:58| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 本】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
TBありがとうございました。
『愛書狂』は家にあるのですが、図版を眺めただけで、中身はほとんど読んでいません。(苦笑)
でも、図版を眺めるだけで楽しい本ですね。
特に、グランヴィルの絵が気に入っています。
お金と収容場所があれば僕もコレクターになるのですが、一生無理のようです。(笑)
Posted by lapis at 2009年04月12日 23:16
lapisさん、こんばんは。
おっしゃられるように、眺めるだけで楽しめる本ですね♪

>お金と収容場所があれば僕もコレクターになるのですが、

いや、お互い無くて幸いかもしれませんよ~。もしもコレクターになれそうだったら、それはそれで気の休まる時間がなくなりそうですし・・・。マニアやコレクターは、『茨の道』ですから・・・(笑)。と言いつつも、なってみたい気はありますよねぇ~。
人の心は複雑ですね(苦笑)。
Posted by alice-room at 2009年04月13日 18:19
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