2007年12月23日

「世界の古書店」川成洋(編) 丸善

世界中の古書店に関するエッセイ的なものをまとめたもの。それぞれの章毎に別々な人が書いていて、本書はそれらを寄せ集めたもの。

海外の古書店は私も時々覗くのだが、情けない事に私は英語ぐらいしか分からないのでフランス語やチェコ語、イタリア語の本など知らない言葉の本は面白そうでも読まないので原則は買わない。(例外的に図版が多くて綺麗だと買ってしまうこともあるが・・・)

また、単なる旅行者として通りがかりに一冊買うぐらいで海外の古書店に通い詰めた経験もないので、その意味では本書の執筆者方のように足繁く通って、古書店の雰囲気や古書店主の人柄などを描き出した文章はとても興味深かった。

また、日本に限らず世界中のどこの国でも硬派の古書店は、衰退しつつある潮流を感じて、いささかの悲しさを覚えた。でも増減はあってもいつの時代にも本を愛し、求める人はなくならないはずだし、事実これまでの歴史でも古書店が絶える事がなかったのだから、今後も紆余曲折ありつつも古書店の存続(繁栄)を期待したいと思った。

様々な国の古書(読書)事情やこだわりのある古書店主の人物像など、古書好きなら、読んでいて間違いなく面白いだろう。その反面、執筆者は学者に大きく偏っており、自らの専門書集めという視点なので、純粋たる趣味としての『古書収集』ではないのが残念だ。

どんなものでもそうだが、自腹で購入するのと与えられた予算で購入するのでは熱意や情熱が全く変わるのは自明であり、マニアとしての心意気や僥倖などの面白いエピソードのたぐいはほとんど無い。そもそも具体的な書名やそれにまつわる話などは、ごく一部に過ぎない。

これは、各執筆者に割り当てられた紙数の制限の故だろうと思うし、執筆者の偏り等も本書の出版社である『丸善』故だろう。これは仕方ない話だ。また、どうしてもイギリスに偏ってしまうのもそれらの複合要因とまあ、ロンドン故か?

『ビブリオマニア』という視点では、本書は全く評価されないだろうが、良き海外ブックハントの超・初心者入門書としては、結構いいかもしれません。恥ずかしながら、NYの古書店なんて知らなかったもんなあ~。今度、モーガン・ライブラリーに行く際には、絶対に寄ろうと思った「ストランド書店」!
【目次】
古書の町ヘイ・オン・ワイ―イギリス
ジョンソン博士の古本屋―イギリス、リッチフィールド
古書店との出会い―イギリス、オックスフォード
中世の町の古書店―イギリス、ヨーク
趣味が高じて・・・ハマースミス書店―イギリス、ロンドン
学者の商法・パタースン書店―イギリス、ケンブリッジ
ウォルター・スコットの館の近くで―イギリス、スコットランド
「北のアテネ」にて―イギリス、エディンバラ
フレッド・アンド・ハナ書店―アイルランド、ダブリン
老婆も訪れる気ニーズ書店―アイルランド、ゴールウェイ
マドリード古書旋回―スペイン
闘牛と酒と旅の日々―スペイン、マドリード
龍の眼の本屋―スペイン、ビルバオ
バスク文化の拠点マンテローラ―スペイン、サン・セバスティアン
店主は頑固な生き字引―ポルトガル、リスボン
カルティエ・ラタンの真っ白な空間―フランス、パリ
あるシャンソニエの影を求めて―フランス、パリ
マラルメ自筆原稿との出会い―フランス、パリ
挟み忘れの写真―ドイツ、ベルリン
失われた栄光―ドイツ、ミュンヘン
真摯な商法・ヴィントフェルダー古書店―ドイツ、マインツ
ハイドリッヒ昨今―オーストリア、ウィーン
美術史の古本屋の悲劇―イタリア、フィレンツェ
消えゆく音楽専門の古本屋―イタリア、ミラノ、ボローニャ
北欧書籍市場のキー・ステーション―スウェーデン、ストックホルム
命綱としての古書店―デンマーク、コペンハーゲン
モスクワとワルシャワの名もない古書店―ロシア、ポーランド
古本のスーパーマーケット、ストランド書店―アメリカ、ニューヨーク
演劇専門古書店めぐり―アメリカ、ニューヨーク
「エイト・マイルズ・オブ・ブックス」を誇る書店―アメリカ、ニューヨーク
学生街の古書店―アメリカ西海岸、シアトル、バークレー
南太平洋・オセアニア研究のクロスロード―アメリカ、ハワイ
ボルヘス的な世界・青空古本市―アルゼンチン、ブエノスアイレス
酒と実学の国の古本屋―オーストラリア、シドニー

本書で扱った「世界の古書店」一覧
世界の古書店(amazonリンク)

ブログ内関連記事
「古書店めぐりは夫婦で」ローレンス ゴールドストーン, ナンシー ゴールドストーン 早川書房
「古書街を歩く」紀田 順一郎  新潮社
「古本道場」角田 光代、岡崎 武志 ポプラ社
「古本屋さんの謎」岡崎 武志 同朋舎
「古書法楽」出久根 達郎 中公文庫
「愛書狂」鹿島茂 角川春樹事務所
「世界古本探しの旅」朝日新聞社
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
「ある愛書狂の告白」ジョン・バクスター 晶文社
「書物の敵」ウィリアム ブレイズ 八坂書房
「本の国の王様」リチャード ブース 創元社
ラベル:書評 古書店 古書
posted by alice-room at 08:07| Comment(4) | TrackBack(0) | 【書評 本】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>その反面、執筆者は学者に大きく偏っており、
>自らの専門書集めという視点なので、
>純粋たる趣味としての『古書収集』ではないのが残念だ。
うーん、やはり出版社は知り合いやツテをたどり、執筆者をたどるので、
どうしても学者になってしまいます。
それに洋古書の縁があるのは、この日本では、学者が一番近い、
学者以外にもいることはいますが、そういう人のところへは、
執筆の話は来ません(笑)
学者が興味を持つのは決まっています。
硬い本だけです。
猥褻本は、対象外ですね。

>どんなものでもそうだが、自腹で購入するのと与えられた予算で購入
>するのでは熱意や情熱が全く変わるのは自明であり、
>マニアとしての心意気や僥倖などの面白いエピソードの
>たぐいはほとんど無い。そもそも具体的な書名やそれにまつわる話
>などは、ごく一部に過ぎない。
まさにその通りです。
大学の予算で、何千万もするような本を購入するのではなく、
自分の小遣いで、買うのとでは、熱意が違います。
カスをつかまされても、所詮は他人の金(大学の予算)なので、
まあ、いいかと思うだけですね。
社会保険庁が無駄使いをするのと同様なわけです。
自分の金で買うのですから、熱意が違います。
それに洋古書は、安くないです。
金額がそれなりにはりますので、失敗は許されません。
自分の金ではなく、大学の予算なら、誰でも真剣にはなりません。
自分が苦労して獲得した金ではないからです。
Posted by 愛書家 at 2008年04月12日 05:43
自分で苦労しないと、自腹で金出さないと真剣さが違ってきますね。おっしゃられる通りだと思います。
お役所は、あいみつとか取って競争させませんから。税金は天から降ってくると、思っている感じかもしれませんね。大企業の管理部門にも、時々そういう勘違いした人がおりますが・・・。

ただ、苦労して自腹で行う故に、貴重な経験・勉強ができることもあるのも事実ですから、同じようなことをしていてもその人自身の成長に、明確な差異が出てきますね。これは、仕事や趣味、万事において当てはまるような気がします。
Posted by alice-room at 2008年04月13日 08:46
>また、どうしてもイギリスに偏ってしまうのもそれらの複合要因とまあ、ロンドン故か?
これに関して、いつも思うのですが、やはりわが国の外国語教育において、
英語だけ、あるいは英語が主流であるという要因があるのではないかと思います。
他の言語、フランス語、ドイツ語が英語並の比率で教育されているならば、
英語圏の古書、英語圏以外の古書店の記述が多くなると思います。
悲しいかな、わが国では、英語主流であり、英文学ばかり持て囃されてきており、
その為、どうしても英語圏の文学研究が跋扈し、他の言語は無視されている同様です。
ですので、どうしても慣れている言語、判る言語になってしまいます。
英語だけは出来る、自信がある人間ならば、洋書にしても、まず英語で書かれて本を
読むだろうし、それしか目に行かないと思います。
自信のない、自分の専門外の言語を敢えて挑もうとする輩は皆無でしょう。
古書にしても、やはりわが国では、英語圏、英国の洋古書だけが尊ばれていましたが、
荒俣や鹿島の台頭により、そういった状況も徐々に変化しつつあります。
今が過渡期なのではないかと思います。国内の古書店でも今までは
洋古書といえば、英語の本しかおかなかったものがフランスの古書も置くようになりましたし
オークションでもフランスの古書の比率も多くなってきています。
Posted by 愛書家 at 2008年04月14日 01:04
>今が過渡期なのではないかと思います。国内の古書店でも今までは
>洋古書といえば、英語の本しかおかなかったものがフランスの古書も置くようになりましたし
>オークションでもフランスの古書の比率も多くなってきています。

おお~、日々変わりつつあるんですね。そういった事をあまり知らなかったので、とっても参考になります。今後が楽しみですね♪

情報、どうも有り難うございました。

Posted by alice-room at 2008年04月14日 21:11
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