そもそもニール氏について、渡辺氏はあとがきでも述べられていますが、モンセギュール遺構(カタリ派の最後の本拠地)の研究で名が通った人物であり、彼が本書で展開しているマニ教の系譜をひいているのがカタリ派とする説については懐疑的であり、一概に首肯できるとは思えない旨を述べられています。そういった点を考慮しながら読む分にはいいのかもしれません。
私は専門家でもないので厳密なことは分かりませんが、少なくともマニ教が直接的にカタリ派につながる話は知りませんので、あくまでも仮説の域ではないかと思います。あくまでも概括的にカトリックと異端カタリ派の対立の歴史的推移やその背景を知るには役立つと思います。それとカタリ派がいかにして現世の物質世界を厭い、神による創造を否定したのか、その辺のことについては、詳しく語られています。断片的にはいろいろな本で知っていたのですが、この本を読むと、すっきりして説明でとても分かり易かったです。でも、個人的な感想ではわざわざ買って読まなくてもいいなあ~。
内容ですが、マニ教ってグノーシス派に数えられるんですね。今までのイメージだとすぐグノーシス派キリスト教しか思い浮かばなかったのですが、あくまでもそれはグノーシス派の一つに過ぎないことが分かりました。そして二神論のマニ教が古代において広範囲に伝播していたことにも詳しく書かれています。そしてこれは非常に驚いたのですが、「マグダラとヨハネのミステリー」でリン・ピクネット女史がえらく力説していたマンダ教にもちょっとだけ触れられていました。有名なのかなマンダ教徒?
更に文中でカタリ派の教義として引用されている部分を孫引きすると
「初めに、二つの原理があった。善の原理と悪の原理である。永劫のうちにあって、前者には光明が、後者には暗黒が存した。光明にして霊的なるすべてのものは善の原理に由来し、物的且つ暗黒なる一切は悪の原理に発する・・・・」
知覚できる現実社会を悪の所産とするが故に、現世においては禁欲のうちに処し、善の所産である精神世界を追い求めるんですね。その辺について非常に詳しく、また分かり易く書かれています。そしてその世界観から彼らの行動が初めて理解されていくわけです。当然、彼らは教会などという現実世界のものに一切の価値を認めないわけですし、そのカタリ派が非常に広範囲に広まり、しかも堕落した俗物以外の何物でもないカトリック教会は、徐々に劣勢に陥りかねない不穏な情勢となっていきます。カトリック勢力が、自らの存亡をかけて徹底的なカタリ派弾圧に乗り出す社会状況や政治状況も説明されていて、その辺は読んでいても楽しいです。
ただ、異端各派の説明になると、なにがなにやら分からなくなります。実際の相違が明確でなかったり、資料が不足していたりと理由もあるのですが、私の理解力もいっぱい&いっぱいでキャパを超えてしまいました。まあ、そこは飛ばしてもいいかもしれません。
こうした異端に対してのカトリック側からの対応(異端審問やアルビジョア派十字軍等)もなかなか楽しいですが、いかんせん、紙面不足か事項の羅列になってきてしまいますね。ある意味しかたないのかもしれませんが…。
こんな感じでしょうか。カタリ派の教義の本質部分の説明は良かったですが、カトリック側との対立の説明はちょっと不十分かな。ただ、個人的にはいろんな意味で物足りなかったです。もうちょっと専門的な本を読むべきだったかも? まあ、悪くない入門書って感じでしょうか。ちなみにこの本を元にカタリ派の説明をされているサイトとかがたくさんあるのでそちらを見るのも良いと思います。一応、下に挙げておきます。
【目次】
第一章 起源
第二章 マニ教
第三章 マニ教からカタリ派へ
第四章 カタリ派
第五章 アルビジョア派
第六章 アルビジョア派十字軍
第七章 モーの協約と異端審問
第八章 モンセギュールと最後の抵抗
異端カタリ派(amazonリンク)
関連サイト
異端カタリ派
異端カタリ派 ヴォイニッチ手稿で有名なサイト様です。
関連ブログ
ヨハネを崇めるマンダ教徒(グノーシス派)
イエスを偽預言者、嘘つきとみなす「マンダ教徒」
「オクシタニア」佐藤賢一 集英社
「異端審問」 講談社現代新書