2008年01月06日

「ヨーロッパの出版文化史」戸叶勝也 朗文堂

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本書は装丁がなかなか素敵で、大きな図版もそこそこ入っているので手に取った本です。
内容は目次で分かりますが、15世紀から18世紀までの印刷を扱っており、個別具体的な印刷技術や地域に関する部分は、極力抑えて大きな歴史的な動きを概観するようなものとなっています。

木版「聖母像」1418年
(木版「聖母像」1418年)

その点で言うと、大変よくまとまっており、本書を読むことで一通りの流れが掴めると思います。その反面、ある種、教科書的なバランスと鳥瞰図的な視点の為、エピソードのような具体的事例が少なく、読んでいるとそれほど面白くなかったりする。単純にいうと退屈なんだよねぇ~。う~ん、ある意味仕方ないのかもしれませんが、残念です。

15世紀後半の木版本
(15世紀後半の木版本)

ただ、小さな地域毎に分断されていたあのドイツで、いかにして本を販売し、代金を回収し、決済していたのかその書籍流通の仕組みは、本書を読んで初めて知りました。大変興味深かかったです。

シェーデル編「世界年代記」ノアの箱舟
(シェーデル編「世界年代記」ノアの箱舟)

また、カトリック側とプロテスタント側双方の動きがいかに深く且つ密接に書籍流通と関わっていたのか、本書では分かり易く書かれています。現代の国立図書館などにある献本制度のそもそもの成り立ち(=異端書籍ではないかの検閲の為)やそれが書籍流通に及ぼした影響なども面白いです。

ルター著「ドイツ国民のキリスト教貴族に告ぐ」
(ルター著「ドイツ国民のキリスト教貴族に告ぐ」1520年)

でも、値段は高いなあ~。私的には一度読めば、いい感じでした。コストパフォーマンスから言うとあまりお薦めしません。悪くは無いんだけどネ。そうそう、プランタンやキャクストンなども代表的な印刷業者として出てきます、念の為。

近代的海図帖1585年
(近代的海図帖1585年)

オランダ語聖書
(ヤン・モレトゥスによるオランダ語聖書)

ライプツィヒの市庁舎附属図書館
(ライプツィヒの市庁舎附属図書館)

【目次】
第一章 グーテンベクル以前の書物の世界
1ヨーロッパ中世・写本の時代
2書体の重要性
3木版印刷の出現

第二章 活字版印刷術の発明―十五世紀半ば
1グーテンベルクの生涯
2活字版印刷術の発明と初期印刷物
3活字版印刷術の完成と聖書の印刷
4フスト&シェッファー印刷工房の発展
5グーテンベルクのその後の活動

第三章 活字版印刷術の伝播―十五世紀後半
1ドイツの他の都市への伝播
2ヨーロッパ諸地域への伝播
3この時代の代表的な印刷・出版業者

第四章 十五世紀末から十六世紀前半の出版業
1ルネサンス人文主義と出版業者
2宗教改革と印刷物の普及―ドイツを中心に

第五章 十六-十七世紀の出版業
1印刷術とヨーロッパ各国語の形成
2この時代の書籍取引
3書籍取引の場としての書籍市
4フランクフルト書籍見本市の繁栄
5カトリック・ルネサンス(反宗教改革)時代の出版業
6オランダ出版業の発展とその他の国の出版業の低迷

第六章 十八世紀の出版業
1ライプツィヒ書籍見本市
2啓蒙主義の影響と文学市場の成立―ドイツの場合
3近代的書籍出版販売への転換―ドイツの場合

本書執筆にあたっての参考・引用文献・資料/図版の出典
あとがき
ヨーロッパの出版文化史(amazonリンク)

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「世界の名著23 ルター」松田智雄編 中央公論社
「宗教改革の真実」永田 諒一 講談社
「ライフ人間世界史(7)宗教改革」タイムライフインターナショナル出版事業部
ラベル:書評 出版
posted by alice-room at 13:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 本】 | 更新情報をチェックする
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