2005年10月05日

「デセプション・ポイント」ダン・ブラウン 角川書店

desept.jpgご存知「ダ・ヴィンチ・コード」で一躍、世界の中でも有数の有名人となったダン・ブラウン氏の作品です。実は、この本を読むのはちょっと避けていたんですよ。読む前から、想像していたある理由からなんですが・・・。

「ダ・ヴィンチ・コード」には、私が知らないことが非常にたくさんありましたし、この本を読んで今まで漠然とキリスト教に抱いていた胡散臭さ(=表現が適切では無いですが、作られた歴史等々)がある方向からではありますが、明確に形として提示されたのが素晴らしいと思いました。何よりも着眼点とその見つけた素材の料理の仕方が卓抜していると思っています。

この本によって、世界各地で見るキリスト教美術・建築等々の素晴らしさと同時に、それが内在し、秘匿してきた問題点があることを示した、それが本当にすごいなあ~と感動しました。おかげで私も関心を新たにし、いろいろな関連書籍を読むきっかけになったんですから、まさに感謝&感謝です。

「天使と悪魔」については、バチカンという知名度の割に実体が知られていないものを採り上げ、知的好奇心はもとより『信仰』というものについて非常に考えさせられ、物語として実に素敵な小説でした。ダ・ヴィンチ・コードが知的好奇心に訴えかける感動だったのに対し、天使と悪魔は感情に訴えかける感動だったように思います。あくまでも相対的にですが、私の場合では。

どちらも私の大のお気に入りですが、今回の「デセプション・ポイント」は読む前からこれらとは根本的に違うだろうなあ~と予想しておりました。勿論、読者が未知の情報・知識がふんだんに露出し、ハラハラドキドキのスピーディーな展開、ちょっとしたロマンス。ブラウン氏のいつものお得意パターンは変わらないだろうなあ~とは思いつつも、何か新しい切り口や着眼点がなければ、人は新鮮な感動をしませんから・・・。

で、実際に読んでみると。
恐ろしいほどに私が想定していた通りの本でした。著者のもともとのスタートだったSF的な素養を感じさせつつも、舞台はまさに映画によくある政治・陰謀もの。まあ、逆に言うとダン・ブラウン氏の作品はどれもがそのままいつ映画になってもおかしくないものばかりですけどね(いい意味で)。勿論、ストーリーもしっかりされているし、主人公達は、最初から最後まで息つく暇なく、追われ、探し、闘い、休み無く酷使されます。読書が少しでも気が抜けないように、次から次へと、謎と追っ手と回答が与えられて読者を離しません。私も結局、睡眠時間削って読んでしまったのでまんまとはめられた一人です(苦笑)。

アメリカ政府が情報収集・解析・攪乱を含めた情報戦略に莫大な資金を費やしていることやネットや通常通信のありとあらゆるものを調べて対テロや国際政治の駆け引きに使っていることは、以前から個人的に興味を持っていて知っていたので何を今更・・・的なとこもありましたが描き方はやっぱりうまいです。(googleがNASAと共同研究とか、世界盗聴システム「エシュロン」とか、その手の情報は普通の新聞やネットニュースで無限に情報ソースありますしね)

NASAの地球外生物探査計画(SETI)もずいぶんと以前に話題になりましたもんね。私も大喜びして記事読んでた覚えがありますが・・・。まあ、そういったものを小道具にしながら、政治的な駆け引きの最たるものである大統領選を絡めつつ、個々の団体・個人の思惑等が複雑に交差しながら、いかにもありそうな人間ドラマを描いています。

心憎いことに、しっかりラストも王道をいってますしね。ダン・ブラウン氏の他の作品読んでなければ、絶対にもっと面白かったんだけどなあ~。3作とも同じパターンは辛いです。この人の作品でなければ、読者をなめんなよ~と怒りたいぐらい、本当にそのまんまのパターンです。何から何まで一緒なんだもん。さすがに今回は辛かった・・・マジに。付け足しのロマンスはもういいでしょうに、007じゃないんだから。

知らないこと(細かい科学的知識)もたくさん載ってましたが、本質的な意味でこの本読んで知らなかったなあ~と驚いたり、感動したことはなかったです。小説としては、読み易くていいんだけど、退屈しのぎに読む小説レベル。少なくとも、私にはこれは読まなくてもいい本だし、想定していた通りだったけど、予想を裏切ってくれるのではなどという隠れた期待もあっただけに、がっかりした。

普通にこの本だけ読めば、それなりに楽しい小説だとは思うんですけどね。ちょっと思い入れが大き過ぎるので、残念でした。まあ、ブラウン氏のファン故の愚痴みたいなもんです。でも、ブラウン氏の本を読むなら、「天使と悪魔」か「ダ・ヴィンチ・コード」をお薦めしますね。両方とも傑作ですよ、本当に! ミステリーとして読むべきものではなく、そのまんま小説として読む方がいいと思いますけどね(あの本で謎解きを期待すると、違った感想になるかもしれません)。

ちょっとだけ、粗筋も書いておきます。
大統領選が一つの舞台。現大統領を支持しながらも、実の父親がその最有力候補者の女性が中心人物の一人。しかも彼女自身も政府の情報機関に勤める人物だった。その彼女が突如、大統領から呼び出される。訳の分からないまま、大統領の指示でNASAの長官と合わせられる。そしてそこで【世紀の大発見】を知らされる・・・。
一方の舞台は、政府の金食い虫でありながら、成果も出せず国民からの批判の目を浴びるしかなくその存続が危ういNASA。予算削減と民間への宇宙市場開放との要求に押しつぶされそうになっている。これらの両舞台を背景に、様々な思惑で動く政治や陰謀満載の娯楽小説ってとこでしょうか。これ以上はネタバレになるので、自粛。

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posted by alice-room at 15:40| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
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