もっとも最近の小説では、ジャンル分けという概念自体が希薄であり、SFという枠があってもなくても関係ないのですが、神林氏が一流の作家であることは間違いないと個人的には確信していたりします。何故、こんなにすごいなあ~って、思うかというと…。
とにかく『言葉』というものの本質についての理解が深い。『言葉』をここまで理解し、言語という狭い認識にとどまらず、(万物に内包される)世界・社会を構築させるシステムとして捉えるある種の理系的発想が、サイバーパンクなんてメじゃないぜ!ってなくらい新鮮且つ合理的であり、その一方で言霊(ことだま)信仰にも近いような世界観がたまらなく魅力的だったりします。
本書の魅力のごく一部さえ、おそらく私の表現能力では伝えられませんが、物事を観る視点が変わるとでもいうのでしょうか、慣れ親しんだ目の前にある現実世界が一瞬にして異世界に変化する、そういった凄さを実感できるのが衝撃的です。単なる小説なのに、この衝撃力には脱帽します。
こんなことばかり書くと、読むのがきついだけで息抜きの出来ないガチガチのハードSFかと誤解を招くかもしれませんが、違うんですよ~(クックックッ)。捉えようによっては、SFというよりもファンタジーかと思えてしまうのがこれまた凄かったりする。無機物のシステムが限りなく幼児のようになってしまうメモタルフォーゼ(変容)には、頭の固い大人にはついていくのが難しいかも?
SFとはいいながら、柔軟な思考を持ちつつも危うい思春期のような繊細な感受性のある方にうってつけだと思うんですけどねぇ~。本書自体が短編集のようでもありながら、その世界観には複雑に関連したものを持っていて、それぞれが有機的に結びついている。だてに青雲賞(SF関係の賞です)をとっていないなあ~と納得させられます。
具体的にどんな内容の話かというと。
都市上空に浮かぶ都市制御体によって管理された世界(ここまではオーソドックスなSF仕立て)で、人びとはもっとも合理的・快適に生活が営めるように調整・管理されていた。人びとは、制御体にすべてを委ねるだけで最大公約数的な幸せが保証されているのですが、そういった制御体に認識されない人物が存在した。彼らはいるにもかかわらず、社会として認識されず、完全に完成した世界にとって危険な不安要素であった。
目の前にある現実世界。しかし、これがあくまでも上の世界と下の世界の間にある、中間世界に過ぎなかったならば…。世界は垂直的層構造をもった社会であるのかもしれない?世界のあり方が変容していく中で、人の存在、私という個人の意義、様々なものが新しく問い直されていく。
どうしたってこの説明や紹介ではよく分からないし、伝わるわけもないのですが実物の本を是非見て、ちょっと読んでみて欲しい。巷にあふれるSF小説とも違うし、単なる小説とも違う。読むだけの価値ある小説であることだけは保証します。少なくとも著者の作り出した世界観はきわめて魅力的で夢がある。ありえないのだけど、論理的にはありえるのかも知れない虚構性がたまらない魅力です!! はまると著者の本、読みまくりで出費がかさみそうですけどね・・・責任は負い兼ねます(笑)。
~色というのは、何も無いところに色たちが降りてきて、初めて鮮やかな色を目にすることができます~
こんな世界観さえ出てきますがついていけますか?皆さん。童話ではありません。
プリズム(amazonリンク)
「プリズム」は、優れたSFだと思います。僕は、「ペンタグラム」冒頭の「堕天使に出会ったことはだれにも言うまいと少年は思った。」という一節が好きです。いきなり、作品世界に引き込まれる効果的な出だしだと思います。
表紙の佐藤道明氏の絵も好きです。
こちらからもTBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
>読み返した回数では、トップクラスのSFぢゃ。
はい、おっしゃられるように私も同感です。いい作品は、何度読んでもイイ! 何度でも楽しめる、深いモノがある作品だと思います。
こういうSFがたくさん出てきて欲しいですね!本当に!。