2008年01月20日

「災いの古書」ジョン・ダニング 早川書房

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古書を巡るミステリー小説で人気のシリーズ物、第四作目に当たる作品です。

これまでのシリーズ物で披露された古書にまつわる知識は、本書に限っていうならば、その役割を大幅に縮小している感じです。単純にいうとその部分はあまり面白いとは言えない。

でも、「著者サイン本」という形でメインストーリーにはきっちり組み込まれてはいますので、本に関するミステリー小説としては、体裁を保っていると思います。

小説として面白いかと言われれば、ちょっとためらいがあるものの、確かに面白いし、事実、読書中は夢中になって頁を追っていたし、最後の最後まで話の展開を引っ張って飽きるどころか、きっちり盛り上げていく手腕は素晴らしいと思います。

その一方で、本書で描かれる世界はアメリカに普通にありそうなのは分かるのですが、正直反吐(へど)が出るほど、嫌な日常世界です。私は大嫌い!!

映画ランボーの第一作目のような偏狭で傲慢でしかも自らを「正義」と勘違いしている小役人や、本当に罪の無い子供たちが虐待する大人なんて速攻、抹殺でいいのではと強く思います。

本書を読んでいて、前半はほとんど憤りと嫌悪感を通り越した不快感でいっぱいになりながら、読み進めてました。それでも、読書を放棄させず読み続けさせるのが作家の類い稀な力量なのかもしれません。

不満はあっても、実際読書をやめずに続けさせたんですからネ。

さて、内容はというと。
恋人の依頼で、かつての警官としての経験を買われ、事件に巻き込まれていく古書店主である主人公。恋人のかつての女友達が殺人事件の容疑者になっており、何故か殺されたその人の夫は、微妙に価値のあるサイン本を大量に所有していたりする。

余所者を嫌う保安官代理。協力的でない容疑者である女友達。

あまりの閉塞感にここは自由の国アメリカの話とは、嘘でも信じたくなくなるような世界です。まるでCBSニュースの事件報道のようで気持ちが鬱になります。

そういうところでの裁判が中心になります。一部法廷劇っぽいが、あくまでも一部でむしろハードボイルドっぽいかもしれません。



【※ 以下、直接的なネタバレはありませんが、微妙にかすっていくので読了後に読むことをお薦めします。】













最後の方は、だんだんミステリーらしく盛り上げていき、途中伏線も無しで「そういうのアリ?」とか思うのもあったのですが、正統派っぽい感じでそれなりに納得させて終わります。

きちんと結末をつけて収束させているのでOKですが、前半部というかストーリーのほとんどをいらだたせつつ、読者を引っ張る(=注意を集める)のもまあ最後につながるところではあるのですが、う~ん、好きとは言えないです、私には。

アメリカ社会へのいらだち面へと関心がいってしって、素直にフィクションと楽しめなくなりそうだったんです。なんだかなあ~、確かにヒーローっぽくいささか偏った形での正義感の発露は、いいような悪いような、複雑な感情を残します。

決してミステリーとして悪いなんてことはなく、面白いと言えば面白いのですが、後に残った不快感が辛いなあ~。個人的には、お薦めしたくない本です。これは人によって個人差があるので、読もうか否かを悩まれているなら、他の方の書評も読まれた方がいいかも?

災いの古書(amazonリンク)

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posted by alice-room at 09:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
「幻の特装本」や「死の蔵書」が良かった印象があり、「災いの古書」というタイトルには惹かれるものがありますが、前作に比べるともうひとつのようですね。参考になりました。

ダビンチコード関連も読ませていただいており、とても参考になります。
私はツアーでルーブル美術館+αでアンボワーズには行きましたが、この本が売れなければ、このようなコース設定はなかったでしょうから、経済効果はすごいですね。
Posted by kwin at 2008年01月20日 12:21
kwinさん、こんばんは初めまして。
このシリーズの延長線上で古書関係のうんちくを期待してしまうと「ちょっと違うかも?」と思われるかもしれません。
主人公自身は、うまくキャラ設定されているとは思うのですが、背景の舞台設定が私にはいささか辛かったです。ただ、それも最後にはきちんと生きてくるので語りとしてはうまいと思うのですが・・・。

少しでも参考になれば幸いです(笑顔)。

kwinさんも影響されました? 
私は思いっきり影響されてしまいました。ルーブルも行ったし、ダ・ヴィンチ・コード関連本なども読み漁りましたし、私の場合はマイナスの経済効果(=出費)で大いに参りました(苦笑)。
でも、とっても楽しかったです。ダ・ヴィンチ・コード関連の記事も読んで頂いたそうで、どうも有り難うございました(お辞儀)。

これからも宜しくお願いします。


Posted by alice-room at 2008年01月20日 16:51
>kwinさんも影響されました?
DVD などもTSUTAYAで借りてみました。
でも、アンボワーズよりはモンサンミッシェルの方にいきたかったです。
それより
Gyao で 「禁断の聖書:キリスト教の歴史を紐解く!:テンプル騎士団」などをみて、マルタ島には私もいつかいきたいと思っています。
イスタンブールの戦争博物館でイスタンブール側の大砲はみました。
Posted by kwin at 2008年01月20日 22:15
実は、私もモンサン・ミッシェル行ったことがないのですよ~。行きたい!と思いつつ、パリからは遠いので、なかなか予定に組み込めなかったりします(本当に残念!)。是非、行きたいんですけど・・・。

マルタ島ですか、確かに行きたいかも・・・・。
イスタンブール、うわあ~そこも是非、行ってみたいところです。実は、チュニジアに行く際にトルコ航空でイスタンブール経由にしようか、エール・フランスでパリ経由にしようか迷ったことがあり、乗り継ぎの関係でその時はパリにしたので結局いけなかったんです。

ちょっと心残りで今もずっと気になっています。去年はどこにもいけなかったので今年は、どっかに行きたいです!!
Posted by alice-room at 2008年01月21日 21:18
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