2005年10月12日

「フランスにやって来たキリストの弟子たち」田辺 保 教文館

regenda.jpg思っていたより結構、読み応えあるかも? サブタイトルに―「レゲンダ」をはぐくんだ中世民衆の心性―とあるが、このレゲンダは英語ならlegendで、本書はフランスに伝わっている聖人伝を集めたものです。実際に、読んでみると当然ながら、黄金伝説がその中心にあるんですがそれに留まらず、「レンヌ=ル=シャトーの謎」「聖杯伝説」など、巷にあふれる本にも書かれているエピソードなどが可能な限り採り上げています。

著者の姿勢は史実に拘泥すること無く、あくまでもフランスの民衆がどのようにして聖人達の来歴・存在を受け止めているのか?民衆の視点や民衆の心情に基づく聖人伝を紹介しています。その意味で、他の本ではあまり出てこないような話も多く、読んでいてもこういう話があるんだあ~と、とっても楽しいです♪

逆にそれぞれの伝説についても掘り下げて知りたいと思った時に、参考になる文献も文中に挙げられており、いろいろと役立ちそうです。

とっても読み易く、情報満載なんだけど、欠点もあります。著者がキリスト教徒の方であり、出版社がキリスト教系の為、文章のあちこちに宗教色が感じられ、私のような非キリスト教徒にはいささか違和感を覚えます。時々、過剰なまでのキリスト教徒的心情が吐露されているのは、ちょっと辛かった。それさえ無ければお薦め~!って言いたい所なのだが・・・。

元々はマグダラのマリアに関する聖人伝の情報が知りたくて購入した本ですが、その目的は達成できました。マグダラのマリアについては、かなり充実しています。黄金伝説のそのマグダラ部分については、ほとんど全訳に近く文章を引用しています(細かい所は削ってますが)。

また、イエスとマグダラのマリアが婚姻し、その子孫がメロヴィング朝を創始した話まで触れています。マグダラが最後を過ごしたサント=ボームの洞窟についても詳しく描かれていて、観光地巡りのガイドブックとしても使えそうなくらい。

サン=マクシマンのサント=マリー=マドレーヌ聖堂。マグダラのマリアの聖遺物(頭蓋骨)についての話も面白い。復活したイエスがすがりつこうとするマグダラを押し留めた際、イエスの手の触れた部分が皮膚として残っており、頭部の左目の上の辺りの皮膚と肉が聖遺物となっています。これが「ノリ・メ・タンジェレ(我に触れるな)」として有名なんだって!へえ~って思いました。

後は、私も知っているマグダラの聖遺物の真贋争いかな?元々はヴェズレーのマドレーヌ聖堂にあるもの(サン=マクシマンから掘り起こして持ち出した)がマグダラの聖遺物だと信仰を集めていたのですが、実はそれは別人のもので、本物のマグダラの聖遺物は元のサン=マクシマンに残っていたという争いがありました。とっても有名なお話ですが、これについても詳しく書かれています。他にもたくさんの話が載っていて、マグダラのマリアに関する伝承は一通りこれ読めば分かりそうです。

今でもマグダラのマリアを含めて3人のマリアが流れ着いたとされるサント=マリー=ド=ラ=メールの地とか、やっぱり知っておきたい基本事項かなあ~とも思いました。この辺の資料って探してもあまり無いから、有用かも?

ロカマドゥールの黒い聖母。黒い聖母については、いろいろな本でも採り上げられているテーマですが、実際にそこに行かれたうえで実体験に基づき感想なども書かれているので、これも観光に行く前に読んだりすると、絶対に楽しさが倍増しそう。

他にもたくさんのテーマが盛りだくさんですので、資料として目を通しておきたい一冊かな?個々のテーマの掘り下げは浅いけど、とにかくとっかかりとして読んでおいていい本だと思いました。
【目次】
アレオパゴスのディオニシオ
聖なるマリアたち
マグダラのマリア
徴税人のかしらザアカイ
イエスに会いに来たギリシア人
アリマタヤのヨセフ
その他の聖人たち

フランスにやって来たキリストの弟子たち―「レゲンダ」をはぐくんだ中世民衆の心性(amazonリンク)

関連ブログ
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社
posted by alice-room at 21:45| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
TBありがとうございます。
面白そうな本ですね。特に「ノリ・メ・タンジェレ」の話は面白かったです。ただ、キリスト教色が強いというのは残念ですね。
このような本を見ると、外国語が出来る人が羨ましくなります。まあ、努力しない自分が悪いのですが。(苦笑)
全然関係ないのですが、「ノリ・メ・タンゲレ」という道原かつみのマンガを思い出しました。(笑)古いですが面白いマンガです。
こちらからもTBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
Posted by lapis at 2005年10月13日 00:08
こんばんはlapisさん。そうなんです、ちょっとキリスト教色があってそこがちょっとイヤですね。あとは面白いんですが・・・。

道原かつみのマンガ、なんか興味湧きますね! 漫画喫茶にあるといいんだけどなあ~。先日もいろいろと探してたんですが、お目当てのものに限って置いてなかったです。残念。

TB有り難うございます。こちらこそ、宜しくお願いします。
Posted by alice-room at 2005年10月13日 01:11
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

聖人にされたブッダ
Excerpt: 『聖バルラームと聖ジョザファ伝』  インドのアヴェニール王は、異教を嫌い、基督教徒となった宰相バルラームを追放した。王に後継者が生まれた時、予言者は、ジョザファと名付けられた王子が基督教徒の王になるこ..
Weblog: カイエ
Tracked: 2005-10-13 00:05