
いやあ~この本で問題になっているイエスの弟の孫箱が贋作で首・者一味がイスラエルで捕まった記事を読んで以来、ずっと読んでみたかったんですよ~。
だってね、フェイクの石棺をいろんな科学的分析をしたうえでその筋では有名な学者達が多数、本物と認めたうえで、トロントの王立美術館で展覧会までやったんだよ~。イエスは実在した確かな考古学的証拠である、とか大層なこと言って大騒ぎしてたのに・・・これだもん。本書は、この石棺が本物かどうか分からない段階のものであり、著者は99%以上の確率で本物と確信して書いているらしいので、いささか悪趣味ですが意地悪い観点から、この本に興味を持っていました。
そもそもの事件を御存じない方もたくさんいらっしゃると思いますので、そこからお話しますね。ある骨董マニアが何十年も前に購入したまま、放置していた古代の石棺があり、たまたまそこを訪れた古文書学者がそれに文字が書かれているのを発見する。どうやら「ヤコブ、ヨセフの息子 イエスの弟」と書いてあるらしい? この学者さんピンと来るものがあったらしく、他にも古文書学の権威への鑑定や科学的測定などにかけてみると、それらは全てこの石棺と銘文を本物とする判定結果だった。
それでもって、通常こういった出所不詳(臓怪しげな孫董市場での購入品)のものについては、学術論文として採り上げてくれないんだそうですが、「聖書考古学レビュー」という出版ではOKだったんでそこで発表したそうです。そうすると、イエスが実在した証拠が発見されたとしてBBCやらニューヨークタイムズやらが大々的に採り上げ、学会他世界中で大騒ぎになったそうです。勿論、当初から真贋論争は巻き袖こりましたが、それでもこれを本物と認める学者や測定結果も多く、ついにはトロントまで運ばれて美術展で展示されたりもしました。この世紀の大発見を一目見ようと、何万人もの人が押し寄せたとも報道されています。
ただねぇ~、実は展示される前にも不可解な問題が生じたりする。世紀の発見なのに、何故か梱包がずさんでトロントに到着して梱包を開ける時には、石棺は壊れて5つに分かれ、傷だらけで、ボロボロと粉になっているものまであったそうです。おそらくそれも初めから仕組まれていて多額な保険金を詐取するのが狙いなんでしょうが、この損壊事件も世界中に大ニュースとしてかけ巡りました。
最終的には修復して展示するんだけど、石棺の出所といい、この損壊事件といい、怪しいものがたえずつきまとっているんです。それでも鑑定の結果から、あくまでも本物とみんなが信じていたわけです。
しかし、しかし、イスラエルの考古学調尊当局はこれを捏造したものと発表。その後しばらくして、一番最初の所有者で孫董市場から購入したと言いつつ、その出所をはっきりさせなかった人物と彼と組んでこの捏造を仕組んだ人物を逮捕したというニュースが流れました。
どうやら石棺自体は、本物で年代はあっていたらしいのですが、やはりその石棺に書かれた文字は捏造されたものだったようです。非常に巧みな偽造で専門家が軒並み騙されたという、近来稀にみる大規模なフェイク事件でした。日本のTVでは、世界で何があっても興味ないんでちっとも報道しませんがキリスト教の世界には多大なる影響を与える事件で大騒ぎしてたそうですけ。まあ、日本ではたまちゃんとかもっと大切なニュースバリューのある記事があるんでしょうから・・・仕方ないですね、報道されなくても。
とまあ、こんな事件がありました。それでは以上の事件を念頭に置きつつ、石棺の真贋が決まっていない段階でこの本は書かれています。
まず著者の一人は「聖書考古学レビュー」の編集者で、この石棺に書かれた銘文を公表する記事の編集にあたった人物です。銘文の信憑性を証・することに多くかかわり、トロントの美術館での石棺の展示会開催に奔走したそうです。
なんせねぇ~、著者のいう所では、以下の5つにも渡るテストを経てもこれは本物に間違いないと力説するんですから、熱の入れ方が違います。
古文書学(文字の歴史的形態)
言語学(当時のアラム語の語法)
地質学的分析(パチナの化学成分)
統計学(銘文の名前が、当時の全人口内で表れる頻度)
一世紀のユダヤ人の埋葬習慣
なんせ、イスラエル地質学研究所の公式調尊結果で「現代の道具や器具が使用されたいかなる形跡も認められなかった」というお墨付きをもらい、たくさんのその筋の権威もおおむね本物認めていたので、もう自信満々です。
本書は二部構成に分かれ、第一部ではこの石棺と銘文が本物であることの多角的証明をし、第二部では銘文に描かれたヤコブやイエス、イエスの弟に関する聖書学的な話がされています。
第一部では表面上、贋物の可能性もあることを認めつつ、謙虚そうにみえますが、各種の鑑定からどうみたってこれは本物だという著者達の主張が何度も繰り返されます。最後にはこの真贋を否定する人びとはその筋の専門家じゃなくて、ただ懐疑的なだけで骨董市場からの発見物を認めない偏狭な人々と一蹴してしまうのはどうでしょうか?
結果的に、ここまで強く本物と主張した著者達は、現在、おそらく立ち直れないほどに彼らのキャリアを台無しにしてしまったでしょう。勿論、騙された彼らの不運もあるのでしょうが、輝かしい名声と自らの幸運に夢中になって客観的な冷静さを無くした点は、自業自得といえるかもしれません。
だって、まだこの発見の真贋が明確になる以前に、思いっきり調子に乗っていいたいこと言ってるし・・・。ローマ・カトリックがマリアの処女性に拘泥して、イエスの実弟を認めないのは大きな誤りだとか、もろもろのカトリック批判までしちゃうのは、どうでしょうか? 自分達の発見が学会を変える的なうぬぼれにつながっているのが、ありありと見えてしまいます。
それをわざわざ本にしてまで発表したんですから、彼らはその責任を最後まで取らされることでしょう。まあ、悲劇といえば悲劇ですが、同情しづらいのも事実です。
そして第二部では、石棺から離れて聖書学的な一般論の話が出ます。銘文に名前の挙がった人物の系図や初期キリスト教会内での地位とか。正直言って、全然意味が分かりません。私自身がよく知らない上に、同じ名前の人物もたくさんいるし、文章もうまくなくて非常に分かりづらい。読んでると段々と嫌になってきますし、内容もあまり意味があると思えません。本書は第一部だけで十分です。個人的には第二部不要でした。
さてまとめると、読む価値はない本かと。そもそも贋物を本物と主張するだけの論拠が予めあるのでは、と思って読んだ本ですが、まあ、こんなものでしょう。基本的には真面目に述べているのですが、結果的には贋作者に踊らされたという皮肉な結果に終わった物語です。
内容自体は特に面白い点もなく、前半しか読む気にならないし、単なるニュース記事の方が面白いかも? まあ、どういった鑑定をして本物だと思ったのか、それが知りたかっただけですのでちょっと読むと目的は果たせました。
とにかくこれは買わなくて良かった!! ずっと買うべきか迷っていて、外出先の図書館で見つけて浪費しなくて済みました(笑顔)。
【 目次 】
第一部 驚くべき発見の物語 ハーシェル・シャンクス
第一章 まさかっ!
第二章 驚くべき発見
第三章 神の子にどうして弟が
第四章 これは偽者か?
第五章 本当にあのイエスなのか?
第六章 これを無視できるか?
第二部 ヨセフの息子、イエスの弟、ヤコブの物語 ベン・ウィザリントンⅢ
序文―ヤコブの復活
第七章 弟から使徒へ
第八章 使徒からエルサレム教会の指導者へ
第九章 ユダヤ人と異邦人との調停者
第十章 賢者ヤコブ
第十一章 ヤコブの死
第十二章 ヤコブの伝承
第十三章 弟、従兄弟、それとも親戚?
第十四章 ヨセフの息子、イエスの弟
イエスの弟―ヤコブの骨箱発見をめぐって(amazonリンク)
関連ブログ
イエスの兄弟の石棺は偽物 CBSニュースより
関連サイト
キリストの兄弟、ヤコブの骨を収めた箱は贋物