2005年11月01日

「皇帝の魔剣」ぺトラ・エルカー他 扶桑社

ちょっと変わったタイプの連作集。8世紀にヨーロッパを統一したフランク王国のカール大帝が所持した短剣。その短剣には、呪いがかかっているのですが・・・。

この短剣を巡る歴史上の事件を、一話完結でドイツの著名な作家さん達が連作したものをまとめた小説集です。ノリとしてはラブクラフトのクトゥルー神話のような感じでしょうか?キリスト教世界に対する異教徒の呪いを一身に受けた短剣。それに関わった無数の者達が巻き込まれていく血にまみれた悲劇の数々。一話づつが全く異なった内容であり、それぞれが違った作家さんなので、全部で11個の小説をこれ一冊で味わえます。

勿論、全てが面白いとは言えないものの、非常に興味深く関心をそそる小説がいくつもありました。具体的に挙げてみると、第二話の聖遺物絡みのお話。根拠の無いままに聖遺物伝説が形作られていくかという如何にもありそうなお話と、そのままなら聖遺物になるところであった短剣による司祭の殺人事件で、薔薇の名前のような(ちょっと誉め過ぎ?)探偵顔負けの謎解きがなされ、読んでてなかなか楽しいです。品のいいミステリーというところでしょうか。

中でも一番面白かったのは第四話の聖堂騎士のお話。そうです、そうです、お待たせしました。あのテンプル騎士団のお話です。あの当時に驚異としかいいようのない魔術的なゴシック大聖堂建築を可能にした秘密がここでは明らかにされます。勿論、創作小説ではありますが、これも結構面白くて好き!! テンプル騎士団フリークとしては(なんだ、それ?)、是非とも読んでおきたい所でしょう。

あとね、第六話の印刷のお話も実に味わい深いです。私達がイメージするグーテンベルクとは異なり、現実の世界で当時の社会的無理解の下で、いかにして新しい印刷技術を確立したのか? 実際にどうだったのかは知りませんが、妙にこれも実感があって興味深い。ガリレオではないが、社会を変える新しい技術はすべからく悪魔のそそのかしと捉えられた時代に、どれほどの苦労をしたのか、思わず想像してしまいました。夏に印刷博物館に行って、実際にグーテンベルクの印刷物の実物を見て感動したので、より一層興味深く読みました。そして、その発明の影には、意外な人物の存在が! 後は読んでのお楽しみってことで。

それなりに分厚いし、秋の夜長に一話づつ読んでいくのには最適かも? 結構、楽しめる小説集でした。
【目次】 
第一話 カール大帝が呪われた短剣を世に送りだし、その見返りとして象を受けとった話
第二話 聴罪司祭の墜落と、短剣が聖遺物に高められなかった話
第三話 信仰を失った十字軍騎士が、偽りの友を刺殺した話
第四話 聖堂騎士の血なまぐさい使命と、皇帝の短剣が大聖堂の運命を決めた話
第五話 偽ヴァルデマール事件、ブランデンブルク辺境伯領での、短剣の七突きの話
第六話 手をインクで汚した大罪人と、活版印刷の真の考案者の話
第七話 不滅への夢がこわれ、帝国議会のあるアウグスブルクで短剣が見つかった話
第八話 風変わりな嫁入り道具が、湿原の島で不気味な効果を発揮した話
第九話 不運な家具職人の夢見た城が、じつは砂上楼閣だった話
第十話 ロシアの誇り、ナポレオンの屈辱、そして、無謀なフェルディナントの話
第十一話 恋ゆえに心臓を一突きした皇帝の短剣が、眠りについた場所の話

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posted by alice-room at 19:30| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
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