
最近読んだ都市に関する文章としては、実に興味深いものでした。
イタリア有数の観光都市で、TVの映像などで何度か見たことはあるものの、まだ行ったことがなく、今後行ってみたい場所の一つでした。本書を読んでその思いを益々強くしました。
歴史や風土、宗教や習俗など実に多面的な側面から、この都市を採り上げています。都市の地下を25キロにも渡って流れている地下水路の話など、ちょっと普通じゃ知らないままで終わってしまう話などが実に楽しい♪
また日本でいうなら、お祭りなどで班を作る隣組みたいなものでしょうか?「コントラーダ」という組織を中心に人々が生活全般を過ごしており、イタリア人としてよりも、またシエナ市民としてよりもまず最初に自分が生まれ育ったコントラーダの出身としての自負が人々の人生を大きく規定している点が興味深いです。以前、NHKの世界遺産の番組でそういえば芋虫のコントラーダやってたっけ。
中世以来の手厚い福祉施設には、驚くばかりです。今頃日本で話題になっている「赤ちゃんポスト」とかは、既に中世のシエナでは捨て子入れ盤があったんだそうです。巡礼者へ旅の宿と食事を提供するのは、当時一般的ではあったものの、施療院や孤児院などの充実ぶりには目を見張るものがあります。
勿論、他のイタリア都市の例に漏れず、美術を初めとした芸術の都でもあるのですが、本書ではそれらだけでなく、食の文化としてお菓子などの説明まで書いてます。
もし、貴方がシエナに観光で行かれるなら、是非目を通しておくべき本の一つでしょう。私も行く時には、本書を必ず持っていこうと思いました! そこそこお薦めです。
ただ、著者がイタリア、特にシエナに対して熱い思いを抱かれているせいか、その想い故に都市の魅力が増す反面、そりゃエミール・マール先生が聞いたら、一笑に付されるような記述もままあります。イタリアでいくらゴシックと言ってもねぇ~、フランスのゴシックには絶対にかなわないでしょう。シャルトル以上のゴシック建築をイタリアで見た記憶がありませんもの、私。
マリア崇拝もどちらが上とか優劣の比較をできるものではないでしょうが、少なくともシエナがそれほど抜き出ているとは思えないんですが・・・まあ、これは実際に行って見た時のお楽しみにとっておきたいと思います。
こういう感じの本が、いろいろな都市毎にあったら素敵なのになあ~って思いました。
【目次】シエナ―夢見るゴシック都市(amazonリンク)
第1章 自然の力と人間の匠
第2章 都市の宇宙空間
第3章 コントラーダ
第4章 芸術のリリシズムと誇大妄想
第5章 神秘か邪教か
第6章 快楽のトポス
ブログ内関連目次
「動物裁判」池上 俊一 講談社
「魔女と聖女」池上 俊一 講談社
「狼男伝説」池上俊一 朝日新聞
ご存知かもしれませんが、エミール・マールはイタリアでも講座持って教えてたことでイタリアに対する見方がだいぶ変わったようなことを何かの後書きで書かれてたの読んだ記憶がありますが、それでもフランスは一番と言ってた方ですからねぇ~。
まあ、勿論、私が書いてるのは言葉のあや以外の何物でもありませんが・・・・。
私は、フランスゴシックとイタリアゴシックは別物と感じており、どちらが一番とかいうのは、例えが未熟かもしれませんが、フランス料理とイタリア料理の優劣を比べるようなものに思えてしまったので、上のようなコメントをした次第でした。
ありがとうございました。
あくまでも私個人の感覚ですが、イタリアだとどうしても、ローマ帝国時代とルネサンスの印象が強く、それ以外の時代が強烈な光の下で、いささか隠れてしまっている感が否めません。
とは言っても、連綿と続く歴史の重層性がイタリアの魅力だとも思っているので、一概にはいえないのですけれど・・・。
改めて、イタリア諸都市に行ってみたいと思いました。