
ずいぶんと懐かしい作品です。未読本と間違えて再読してしまったのですが、すぐに既読と気付いてもやはり面白くて、結局最後まで読破してしまいました。
神林氏作品の本質の一つだと思うですが、言葉とそれにより構築される世界(現実世界と言語により認識・再構築される世界)の面白さが本作品でも非常に強く現れています。
「グーグル化」やらニコ動のコメントによる情報の共有化、古くはノレッジ・マネジメントなど、最近になって目新しい単語でさも新しい流れのように誤解されていますが、本質的なものは時代を問わず、変化がなく、基本は言語空間による自己認識世界と外部世界との関わりがポイントのような気がします。
その点で、本作品も実に本質的なものを突いていると感じています。
もっともらしくて内容の無い、ビジネス書やIT系の情報雑誌なんぞ読むよりも本書のような思考実験的な作品を読むほうが、『時代』のトレンドを読み(古い言葉ですみません)、むしろ新しいアイデアが生まれそうな気がしてなりません!
10年をはるかに超える昔の作品ですが、全く古くなっていません。情報というものや、コミュニケーションというものを考える時、本書の視点は実に示唆に富むものだと思います。
SF小説として、単純に面白いのですが、それ以上に社会論、文化論的な視点で見たり、情報処理(あるいは認識)論としても大変興味深いと思います。
是非是非、志のある方、一読して欲しい本です。
ちなみに神林作品系列で言うと、「言葉使い師」とかの直系かな? 広義でいうと「プリズム」を初め、神林作品の中核を占めるテーマでもあると思います。
知的な好奇心のある方にも勿論、お薦めですネ。
おっとっと、そもそも何を描いているのか説明していなかったですね。
文章作成支援ツールとして情報機器が一般化している近未来世界。この設定枠の中での短編(連作?)集です。
必ずしも完全に同じ設定内ではなく、ニアリーイコール的な揺らぎを持った設定です。但し、基本は人間が文章を書こうとする時に支援する『ツール』の存在を通して、人間の言語による世界認識の本質を鋭く突いたものとなっています。
何気なく使っている言葉が、全く違った働きを持っていることに今更ながら、気付かされますので実に面白いのですよ・・・(笑顔)。読後には、違った視点が貴方の中に生まれているのに気付くはずです。
まさに王道SFの一つでしょう♪
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