
結果からいうと、この本は中程度の当り!!この手の本は、企画ばかりで内容がないものが多い中、それなりに読むだけの価値がありました。もっとも本書は干支にちなんだ妖怪をそれぞれ紹介していく企画だったようですが、干支にはもともと日本に馴染みのない動物(外国産)や、馴染みはあっては妖怪としてはあまりいない場合もあり、後半になるにつれて企画の意味がなくなってしまっています。
その点でいうと、本書のタイトルや当初の企画は完全な失敗ですが、干支をキーワードに妖怪に関する話が多種多様な文献から、引用されています。こういう話があったんだ、あるいは、あっ、あの本にはこんな事書かれているんだと文献探しや目安には、とっても有用。
具体的には、以前本屋で見つけて買おうか否かと迷った本に「河童駒引考」(石田英一郎著)があるが、この本から本書に引用されている部分を読むとなかなか使えそうな本であり、改めて購入予定本に入れました(笑顔)。他にも、自分が所有している本が多数引用されていたり、名前だけで読んだことのない文献等もたくさん挙げられていて、自分で調べたい時にとっても役に立ちますそうです。ただ、巻末に文献一覧とかあると、言うこと無しなのですが・・・その点は残念です。
あとね、妖怪に絡む神社・仏閣の写真や駒犬の写真なども白黒ながら、そこそこ入っていて分かり易いです。私もあちこち旅行した時にこの手の写真をよく撮る人なので、それだけで嬉しかったりする。鼠の章では、京都の哲学道沿いにある大豊神社の駒犬として鼠の写真があるが、ここの神社はデートで回ったこともあり、写真もバシバシ撮った覚えがあって懐かしい。貴船神社や三峰神社、秩父神社など私も好きで行ったことのある所の写真も時々出てきてそれもちょっと嬉しい♪
本書の良い所は、これを読むだけでいろんな伝承などを引用という形で知れること。読んでいて分かり易く、楽しいし、更なる文献探しをしようという気にさせてくれます。何でもそうですが、関心が湧かないと資料なんて読む気にならないもんね。特に気まぐれな私としては(笑)。
いくつか本書の中で面白かったところを孫引きすると・・・。有名な話ですがインドの説話から。
「その昔、帝釈天が森の動物たちの徳を試す為、老婆の姿になりすまして森を訪れた。このとき、獣達はすすんで老婆に御馳走するために森をあさった。頭のよい鼠や猿などはいち早く食物の材料を集め帰ったが、兎は不器用なため何も探せず、とぼとぼと帰ってきた。そして老婆の前に来るなり木の枝を集め、火を焚きはじめた。それを見ていた老婆は、兎がこれから調理でもはじめるのだろうとながめていると、とつぜん兎はその身を火中に投じ、「この身体を焼いて食べて下さい」といって、みずから犠牲になった。帝釈天はその行為にいたく感動し、ただちに兎の魂を天に上げ、月世界に住まわせたという。」
お釈迦様が飢えた虎に自らの身体を与えた話が自然とオーバーラップしてきますね。この話自体は何度か聞いたことありますが、改めて他宗教とは異なる仏教的な精神を感じさせてくれる話なので引用してみました。
あと、「兎には雄が無く、月を見て孕む」との中国の古書の話が、「和漢三才図会」にも載っていることなんかも紹介されています。そんな情報も面白くて好きなんですよ~(ニコニコ)。基本としては定番系のお話が多いですが、それにプラスアルファされたものもあり、
この手のが好きな人には、おさらい代わりに如何でしょう? 軽~く読める一冊です。
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関連ブログ
「妖怪図巻」京極夏彦、多田克己 国書刊行会
「日本妖怪巡礼団」荒俣宏 集英社文庫
「かわら版 江戸の大変 天の巻」稲垣史生 平凡社
「稲生物怪録」荒俣 宏 角川書店
月のウサギつながりで、TBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
兎絡みのTBって、なんか楽しいですね!