「黒マリアの謎」田中 仁彦 岩波書店

黒マリアに関する本はいろいろありますが、この本が一番よくまとまっていて、内容が一番しっかりしていると思います。(私が読んだ範囲の中ですが)

結論としては、黒マリアについての起源をケルト由来の大地母神に行き着くところは一緒ですが、そこに至る過程が他の本とは違います。一つ一つ他説の根拠に対して、筋道を立てて反論や肯定をしながら、自らの仮説を進めていくので非常に納得がいくし、勉強にもなります。黒マリアに関心を持っていて、きちんとしたものを知りたい方には是非お薦め致します。残念ながら絶版ですが、大きな図書館とか調べればきっと見つけられると思います。資料としても手元に置いておきたいなあ~と思う一冊です。

いろんな話を知ることができ、単純に読んでるだけで面白いです。ケルトに関しての考察もなかなか詳しいと思います。なにげにマグダラのマリアやシャルトル大聖堂といった私の好きなものも盛りだくさんでした(満面の笑み)。以下、幾つか引用しておきます。
果てしなく広がるボース平野の中心にただ一つ聳え立つシャルトルの丘は、かつてドルイド教の重要な聖地だった所であり、そこには満月の晩には四方から集まってきたドルイドたちが集会を開いた「強き者の泉」と呼ばれる聖なる泉があって、その傍らに「産み出す処女(Virgo paritura)」という文字が台座に刻まれた黒い母神像が祀られていたことが知られている。ドルイド教の女神像にラテン文字が刻まれていたというのは奇妙な話ではあるが、これは古来のドルイド教の言い伝えをローマ属州時代になって文字にして彫り込んだものだという解釈にここでは従っておくことにして、はっきりしていることは、やがてキリスト教時代が訪れた時、ドルイド教に対するキリスト教の勝利を誇示するかのようにこのドルイド教の聖なる泉の上に建てられたシャルトル大聖堂は、この泉を「殉教者の泉」と名を変えてその地下に温存するとともに、この母神像を黒マリアとして地下祭室に祭ったということである。
シャルトル大聖堂の黒マリア、やっぱり基本ですね!
興味深いのは、カマルグ地方の地中海に面した町レ・サンド・マリー・ド・ラ・メール(海の聖マリア)に伝わる伝説である。この伝説によれば、キリストの処刑後、この処刑の場に立ち合っていた三人のマリア―――マグダラノマリア、小ヤコブとヨセの母マリア、マリア・サロメ―――が、死からよみがえったマグダラのマリアの弟ラザロや召使のサラたちとともに、ユダヤ人たちに追われてこの海岸に流れ着き、このあたり一帯に布教した後、この地に葬られたというのである。この話には更に尾鰭がついて、マグダラのマリアとラザロはブルゴーニュ地方にまで布教に行き、マグダラのマリアはヴェズレーに、ラザロはアヴァロンに葬られたということになるのであるが、こうした伝説の発生の元になったのはいったい何だったのであろうか?それはキリスト教以前からこの地に三体の女神が祀られていたということではないのだろうか。この三女神は三人一組になったあのガリヤの女神像であったかもしれないし、海の向こうから流れ着いたという伝承になにがしかの真実が含まれているとすれば、むしろキュベレ、アルテミス、イシスの東方の三女神であったかもしれない。そして更に伝説によって三人のマリアに結び付けられた召使サラの正体は、サイヤンの想像するように、もしかしたらインドのカリー神かもしれないのである。このレ・サンド・マリー・ド・ラ・メールでは、一年に一度、各地から集まってきたジプシーたちの盛大な祭りが行われるのであるが、彼らは三人のマリアの方には見向きもせず、まっすぐに地下祭室に祀られている黒いサラの像を礼拝しに行く。彼らにとってはサラは三人のマリアの召使などではなく、三人マリアとは無関係な彼らの神なのである。

ケルトの神には三体の女神があるんです。それがマグダラのマリアの漂流伝説に絡む可能性も?
シャルトルのそれと同じく「地下の聖母」の名を持つモン・サン・ミシェル大修道院の黒マリア。この黒マリアはフランス革命の時に破壊されて今では存在していないのであるが、それまではこの大修道院地下の「三十本のローソクの洞窟」に祀られていたのである。まるで要塞のように海中に聳え立つこの岩山の大修道院は、岩山がもともとは「墓の山」と呼ばれていたケルト古来の重要な聖地、おそらく西の海中に没してゆく太陽に関係した聖地だった所であり、伝説によれば、アヴランシュの司教オベールの夢枕に立った大天使ミカエルがケルトの太陽神にとって代わったということであろう。

モン・サン・ミッシェルにも黒マリアがあったなんて、初めて知りました!!(驚愕の事実)ミカエルがケルトの太陽神に代わっていく過程やさらにはエジプトのトト神につながる話は、非常に興味深かったです。これは、読んでおきたい一冊でしょう。

黒マリアの謎(amazonリンク)

関連ブログ
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「フランスにやって来たキリストの弟子たち」田辺 保 教文館
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳
「ケルト神話と中世騎士物語」田中 仁彦 中央公論社
「黒い聖母崇拝の博物誌」イアン ベッグ  三交社社

この記事へのコメント

  • seedsbook

    >ミカエルがケルトの太陽神に代わっていく過程やさらにはエジプトのトト神につながる話

    このことを知りませんでした。ミカエルがね。。。

    くわしい事調べて見たいものですね。
    2005年11月17日 00:59
  • lapis

    alice-roomさん、こんばんは
    またまた僕の積読本のご紹介、ありがとうございます。(笑)
    この本は、古本屋で見つけて面白そうなので買ったのですが、そのままになっていました。
    どうやら、当たりのようなので嬉しいです。
    それにしても、alice-roomさんは、本当にすごいペースで読まれていますね。尊敬いたします。
    2005年11月17日 01:20
  • alice-room

    seedsbookさん>こんばんは。いろんなキリスト教的なものがケルトの神と習合しているんだそうです。と、同時に他の異教の神々も。引用するのに疲れ果てて、詳しくは触れませんでしたが、結構、面白かったです。でも、どこまでが妥当な説なのかは分かりません???

    lapisさん>またまたお持ちですか(笑顔)。私専属の司書さんになって頂きたいくらいですね。
    私の場合は読むと言っても何も考えずに、読み散らかしているといったのが真相ですが、仕事が最近忙しいのに完全な現実逃避でいいのだろうかと悩む日々です(自爆)。
    2005年11月17日 22:08
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