
12世紀後半に書かれたと思われる中世フランス文学の作品。と言っても堅苦しいものではなく、庶民にまで広く親しまれた作品で、イソップ童話のように動物が主人公で人間のように話します。
国王や諸侯、聖職者に職人や農民など中世のたくさんの階級の人物が登場し、骨の髄から意地悪な狐ルナールによるいたずらとそれによってひき起こされるトラブルなどが話の中心となります。
オイレンシュピーゲルなどとも共通するような、中世特有の世界観や常識などが何気ない文章の中に散りばめられ、それらが分かると更に興味深いこと、この上なしですが本書では注や解説などでも適宜説明されていて、それらを読むだけでかなり勉強になります。また、それを読むことで何倍も話の面白さが倍増します!
本書を読む方は是非、注や巻末の解説などもお読みになることをお薦めします!!
しかしねぇ~、狼の奥さんと不義密通しちゃう狐のルナールもルナールですが、自分から喜んで誘っちゃう奥さんていうのも、まさに人間世界を戯画したような場面です。
またまた、ルナールに大切な下半身の玉をかじられてなくなってしまい、妻から、女としての喜びを失ってしまったとなじられる場面なども、何のエロ本かと思ったぐらいです(笑)。
そうかと思うと、妻を陵辱された決着を国王の裁判に求める場面では、諸侯が訴えでた原告の証言だけでは発言の信憑性が無いとして、二人以上の証人が必要だとしたり、被告の出頭を待って、弁明を聞いたうえで判決を出そうとするなど、どうしてどうして、実に明確な訴訟手続きが慣習法としてあったことをうかがわせ、中世の裁判制度などの勉強にもなります。
それに、どんな極悪人であっても(国王が死刑にしようとしていたぐらい)、告解をして死んでしまえば、実に有能で立派な家臣を失ったと嘆く国王の変化も面白いです。
単純に童話としての面白さを持ちながら、いかにも民衆が好んだ猥褻性や時の権力者をあざ笑う風刺性などもたっぷり効いていて愉快です。おまけにローマ・ギリシアの古典を踏まえているし、「聖ブランダン航海譚」などもさらっと出てきたり、なかなかやってくれます(ニコニコ)。
本当は読む前は、子供向けのちゃらい本かと思い、読むのを先伸ばしにしていたのですが大きな間違いでした。これはお薦めです!!
以下、ルナールが死んだことになり、葬儀の前で語られる話の抜粋:
「・・・・これが岩波文庫に入っているのですから・・・みんなお勉強しましょうネ♪
国王はじめ、大小の諸侯、皆々様お聞き下さい。我ら承知の如く、ルナール殿は亡くなって我らの前に横たわっています。
狼イザングランの妻君エルサン夫人もご愁傷様です。ルナールは二人きりで、何度も彼女と後ろからやったからです。何度も何度も背中から彼女の割れ目に突っ込んだのです。いつ突っ込んでも仕損じる事のない穴こそ呪われてあれ。
ルナールは王妃様の穴にも何回も突っ込んでいます。彼女から苦情が出たのは、回数が少ないということだけです。聞いてみれば分かりますが、いくら突っ込まれても穴がもうたくさんといったことはありません。
国王を寝取られた男にしたために、王妃の尻の穴は裂けてしまったに違いありません。でっかい尻をしたエルサンもきっと臀部に火傷をしたことでしょう。
疑うなかれ、ルナールはそれらをすべて悔い改めたのです。彼の魂は後ずさりしながら、騾馬を連れて天国に昇ります。そこにはきっと驢馬も死んでから行くことになるでしょう。
・・・・」
ちょっとだけメモ
中世において本は信仰の対象そのものであり、聖遺物箱に保管されていた。疾病などがはやると、写本を水に浸してそれを服用すると薬効があるとされたそうです。
『ダロウの書』の頁に穴があいているのは、このせいだって。
本に書かれていることは絶対であり、真実であって、その為、著者(auteur)と権威(autorite)が同じ語源を有する所以だそうです。
フランス語でルナールは狐を表すそうだが、元々は別の単語があったのにこの話が有名になってしまい、「ルナール=狐」となったそうです。
この話は大変人気があったらしく、複数の写本が現存し、時代を下るに従って、中核となる話に付随する形で枝篇として、いくつものアナザー・ストーリーが生まれたらしい。
【目次】狐物語(amazonリンク)
ルナールの誕生と子供時代
ルナールが荷車の魚を失敬した話
ルナールがイザングランを出家させた話
ルナールがイザングランに鰻釣りをさせた話
ルナールが雄鶏シャントクレールを捕まえた話
ルナールがティベールの尻尾をちょん切った話
ルナールがイザングランの弟プリモーを坊主にした話
イザングランがルナールを国王の宮廷に告訴した話
ルナールが染物屋になった話
ルナールが旅芸人になった話
ルナールが烏のティエスランからチーズをだまし取った話
四十雀とルナールの舌戦
ルナールがイザングランを井戸にはめた話
ルナールとイザングランの決闘
ルナールの死
ブログ内関連記事
「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」藤代 幸一 法政大学出版局
「聖ブランダン航海譚」藤代幸一 法政大学出版局
かのこん
「狐物語」でamazon調べると、「かのこん」が出てきて笑えた。かのこんもエロいが、岩波文庫にエロさで負けてるのが更に笑える。