2008年05月05日

「フランス・ロマネスクへの旅」池田 健二 中央公論新

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新書にしては、実に美しい写真が豊富に入っており、写真を眺めているだけでも初心者の方にはロマネスクというものが漠然とイメージできると思う。

使われている写真もロマネスクの特徴を的確に捉えた、何よりも美しいものが多くて楽しい♪

本書が企画として成功し、売れているのは納得がいくだろう。しかし、逆に言うと、本書にはそれだけしか価値が無いように思える。フランス各地にあるロマネスク建築を紹介した本としては、質より量を優先させてしまった結果、必然的に個々の建築についての解説が不足しています。

率直に言うと、エミール・マールの本の翻訳をしていた著者への期待が大きかった故に、失望がより大きかった! ロマネスクの解説という点では、はなはだレベルが低すぎる。頁数が足らなくて、魅力が十分に伝えられていないと強く感じました。非常に残念だ。

また、よく読むと分かるが写真と文章の解説は相互の関連がなく、文章はそれだけで書かれた後に、ビジュアル的なレイアウトだけで写真が要れられているのが分かる。一見すると、華やかだが、ロマネスクの深い理解には至るわけがない。

そもそも、図像的な点を考慮するならば、写真へは番号が振られ、個々の写真への言及があってしかるべきだが、本書の場合、写真への直接的な言及は一切無い。

実にたくさんの場所・建築物を採り上げ、素敵な写真が多いもののただ眺める以上の価値が無いのが惜しい。大衆に媚売って、レベルを相当落とした結果の売り上げ増だろう。個人的には、この本はいらない!

でも、量のみを優先させた成果もある。普通では、ロマネスク建築の大判な美術百科でもそれほど出てこないような珍しい場所が出ており、その写真は、日本ではあまりお目にかかれないものでしょう。

でもでも、やっぱり写真が文章と遊離しているし、その建築についてもっと知りたいという好奇心を満足させるには程遠い解説は、ストレスになりそう。かえすがえすも残念な一冊でした(涙)。
【目次】
1章 ブルゴーニュ地方(ヴェズレー、オータン、トゥールニュ)
2章 オーヴェルニュ地方(オルシヴァル、サン・ネクテール、コンク)
3章 プロヴァンス地方(セナンク、アルル、ル・トロネ)
4章 ラングドック地方(サン・ギレーム・ル・デゼール、モワサック、トゥールーズ)
5章 ルシヨン地方(セラボンヌ、サン・ミッシェル・ド・クシャ、サン・マルタン・デュ・カニグー)
6章 リムザーン地方(ボーリュー・シュル・ドルドーニュ、ソリニャック、ル・ドラ)
7章 ポワトゥ地方(ポワティエ、ショーヴィニー、サン・サヴァン・シュル・ガルタンプ)
8章 ベリー地方(ノアン・ヴィック、サン・ブノワ・シュル・ロワール、ラ・シャリテヒ・シュル・ロワール)


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posted by alice-room at 23:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
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