
序文より本書の扱う内容について。タイトルは様式を超えた総合的な形態を扱う意図による。
美術作品に認められるそれ固有の表現方法を様式と名付けて様式の研究を美術史の中心問題とすること
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中世芸術について言えば、とくに重要な要因は時代の宗教感情である。
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中世美術の研究は、単なる様式論であってはならない。
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作品の形態をそれそのものとして、様式から精神さらに素材にいたるあらゆる問題を含む総合的な生命の表現として、扱うべきであろう。その意味での形態学である。
エミール・マールの本の訳者であり、中世美術で知らない者がいないであろう、柳氏の本で雑誌「みづゑ」に連載されたもの(1964年)をまとめたものである。本書の出版は40年後の2006年だけど・・・。通常のロマネスク美術の本では、およそ見かけないような珍しいロマネスク彫刻の作品がたくさん&大きな写真で紹介されています。
写真も著者自身が撮影したものが大部分なようで、個別に見ると、大変レアで面白いです。解説も個人的には当たり外れがあるものの、時々大変そそられる内容であったりします。
他方、ロマネスク自体が地域差や差異性の著しいもので、一概に評して言えるものではないと共に、ゴシック美術に見られるような、明確で怜悧な論理による説明もなかなか難しいものがあるようです。それでも読むに値する本だと思います。
本書で初めて知る図像の意図が、必ずあると思います。中世図像学に興味のある方は、目を通しておくべきでしょう。
以下、抜き書きメモ。
ロマネスク聖母子像においては、母と子は会話をしない。二人はむしろ神的栄光に輝く一なるものとして信徒に対する。会話は聖母子とこれを見る者との間に行われる。
ルネサンス期の母子が互いに見つめ合うものとは、明らかに異なっている点を指摘されてます。
キリスト教建築の内部空間はすべて明瞭に一つの核心を持っている。つまり祭壇がこれである。・・・祭壇の位置は十字架形をなす平面プランを考えると、磔刑のキリストの頭部に当たる。かくてこの祭壇上に聖母子像が置かれる時、その像は全建築空間を支配する事になる。
こういう視点を意識してみるのとみないのとでは、全く物の見方が異なってくるでしょう。
中世の教会は百科全書的であって宗教的知識はもちろん、時間、空間に関する様々な知識がそこで得られたのである。神は、宇宙、あらゆる土地、そこに住む生物を創造したが、教会はこの全宇宙であったのだ。動物学は同時に地理学であり、動物図層は広大なる世界の空間性を表現するものであったのであろう。
怪獣はしたがって遠き異国を示すものであった。異国とはまだキリストの福音の光が及んでいない土地である。しかしその土地は単に物質的な意味での遠国に止まらない。異国は、また人々の心の中にもある。
これって、私的には「おおっ、そうだったんだ! だから、怪しげな怪獣みたいなのが、聖なる空間にいてもいいんだね。」って初めてその存在の正当性に納得した次第です。個人的にはずっと&ずっと、いいのかなあ〜。こういうの存在してて・・・と疑問に思っておりました。
およそロマネスク時代の人々ほど植物にとり憑かれた人間はいなかったであろう。ゴシックの大聖堂の彫刻家が、柱頭彫刻その他において植物への深い愛情を示した事はよく知られている。しかし彼等は自然主義的様式によって(つまり対象の自然の形を忠実に写そうとして)植物を表したため、その植物の種類も自然界のそれを超えることはなかった。
これに対して、ロマネスク彫刻家は自然の対象に縛られる事はない。
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作者は自然界の植物の形を真似ようなどとはいささかも考えなかったのだ。そしてさらに空想力に任せて勝手に植物を生み出したのである。
ご存知、シャルトル学派などは、まさに自然主義的視点に立っていましたが、ロマネスク彫刻との違いがこの点にあるという指摘も改めて、ふむふむと頷いてしまいました。
彫像としてのキリスト像は単独像と聖堂入口の高浮彫に大別される。図像学的に言えば、前者はほとんど磔刑像に限られるに対し、後者は受難関係の図像よりはむしろ全能者、絶対者としての図像が選ばれている。
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キリストの神性と人性とは、全能者と贖罪者という二つの概念を導き出す。
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教会建築そのものが全能者と贖罪者という両概念を視覚化したものと考えられる。贖罪者キリストという概念は、聖堂内部の祭壇においてさらに具体化される。
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これに対して聖堂入口では、聖堂全体の意味、神の支配する宇宙としての意味が示されねばならない。
う〜ん、この点はいま一つ実感が湧かないです。この点を意識して、今度実物を見る機会があれば、改めて自分の感性で確認してみたいですね。頭での理解も大切ですが、現物を見て実感が伴わなければ、こういうのって心底納得なんてできないですし。
中世人にとっては、動物という概念は私たちのもつそれとは異なる。彼らが動物に関心を持ち、それを研究するとすれば、それは動物生物学ではなく動物表徴学ないし動物神学の立場からである。
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中世人は動物の背後にひそむ真義を解明しようとする。その意義ゆえにこそ動物は存在理由をもつと考えるのだ。
この辺りの論理は納得しやすいですね。
中世は芸術を教育と考えた。宗教の教義、世界創造以来の歴史、道徳や学問、あるいは自然の秩序から職業的知識に至るまで、人間にとって必要な秩序すべてが図像化され、それが、教会に彫刻や絵ガラスとして表現された。教会美術は視覚化された庶民の聖書であると同時に百科全書であった。これは当時の神学者たちの著書が単に神学だけでなく、あらゆる学を包括していたのと一致する。暦は民衆にとってまことに必要な知識であった。次にその暦が何故に労働によって表現されたか。労働は中世の神学者にとっては、原罪を贖うための業であった。それは奴隷の行為ではなく、人間を罪の重荷から解放する聖なる行為であり、かくてこそ、中世の教会では、王侯貴族が貧しい席しか与えられないのに、ほとんどありとあらゆる職業の民衆が、表現されているのだ。
(by エミール・マール)
時祷書に描かれる『暦』もこの視点で捉えると、また違った見方ができそうです。
本来、ロマネスク聖堂入口は、その内部空間の縮図としての意味を持ち、やはり小宇宙を象徴するものと解してよかろう。半円型のいわゆるティンパヌムはそのまま宇宙の象徴であり、したがって神ないし、キリストの座である。このティンパヌムを囲むアーチおよびまぐさ石は先ず天使と使途が占める。アーチは建築構造上、原則として数層に重なるが、天使の外側は聖人、さらにその外は地上の生活に直接関係した像―善と悪、暦となる。
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建築各部が比例的に縦に伸びたせいか、聖堂入口における宇宙の秩序はティンパヌムを中心とする放射形をとらず、むしろティンパヌムを頂点とする上下の形式をとるようになっている。
ここまで進んでくると、ゴシックまで一直線という感じもしてきます。個人的には、ロマネスク建築は良い意味でのカオス(混沌)だと思っていましたが、ここで挙げられている論理性は、私的にはゴシックのものだと感じるんですけど・・・。まあ、あくまでも私個人のイメージですけどね。
聖堂正面入口の高窓を円型にし、それを車輪状あるいは華文状に表現したのは、明らかに太陽を象ったものである。さらにそれらの「ばら窓」の構成を詳細に見ると、中心から放射状に出ている光が、それぞれ柱によって支えられる柱頭までを具えたアーチをなしている場合が多いのに気がつく。これはスツィゴウスキーのいう古代イランのアーチ信仰と関係しているものと見てよいだろう。窓は教会内部に光を入れる場所であり、内部空間にとっては光の源である。窓は時には太陽に象られるが、時には「聖なるアーチ」として象られるのも、そのような意味で理解される。
バラ窓の捉え方なんだけど、「初めに光あり」だしなあ〜。ステンドグラスによる光とバラ窓による光の違いって、なんだろう? 同種のものでいいのかな? ちょっと気になってきた・・・。
門を飾る首:
アイルランド南部のロマネスク教会クロンフェルト大聖堂入口の破風である。これは12世紀の建物だが、もともと聖ブレンダン修道院に属し、その起源は古く、八世紀に遡り、爾来幾度か火災や破壊の難にあった。その間、幾たびも建て直された建築は多かれ少なかれ、古い伝統を残したと考えられるが、その入口の破風は、その異様な彫刻装飾によって異教あるいは原始社会の神殿を見るの印象を与える。
ここで実際に写真が挙げられていて、見るとギョっとする! 破風の部分に首(の彫刻)が多数飾ってあったりするのだから。
古代ケルトの首に特別な力が宿る、という信仰などが説明され、その伝統を引き継ぐものではと解説されているが、実に&実に面白い!! 聖ブレンダン系統という由来と合わせて二重に関心をひいた。その辺の話も是非もっと知りたいなあ〜。なんかいい資料ないものか???
本書内で挙がっていた本:
サン・ヴィクトールのフゴーの著「教会の神秘の鏡」
ジャン・ジャベル「大聖堂の建築者たち」(1961)
原著の文献一覧がないので、タイトルが分からない。残念だ。
【目次】
1 聖母
2 空想の怪獣
3 天年と悪魔
4 植物
5 キリスト
6 鳥獣
7 庶民の生活
8 抽象の形
9 謎の顔
10 人像円柱
11 柱頭の福音書
ロマネスク彫刻の形態学 (柳宗玄著作選)(amazonリンク)
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posted by alice−room at 23:48|
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