2009年04月21日

「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす 山本 藤光 プレジデント社

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だいぶ前に流行ったナレッジ・マネジメント。そのタイムリーな時期に出版された本の為、玉石混交を前提に期待していなかったのだけれど、本書は大当り!の一冊でした。

上っ面だけでもっともらしいことばかり言うコンサルティング系の方々とは違い、実際に企業の現場で地べたをはいつくばって行動を起こし、周囲を巻き込み、成果を挙げ、社内に大きなうねりを生み出すまでの姿がリアルに描かれています。

業界としては、ちょっと馴染みのない医薬業界のMR(医療情報担当者)が一方の主役です。営業の末端である彼らの業績が低迷していることに端を発し、その原因を探る部分から、本書では実際にどう仮説を立て、行動し、集めた情報をどう分析し、それに対する対処を行ったか、具体的に紹介されています。

業績低迷の原因として、それが管理職である上司の教育不足であることが判明すると、それに短期的に対処する為、各支社のトップMRを集めて、現場のMR育成プロジェクトを立ち上げます。

明文化された形式知(マニュアルや各種医療文献等々)が活用されず、MR個人の我流の努力に任されていた状況を一変し、できるMRが有するまさに暗黙知を徹底した現場での同行によって、伝えていくその試みは、NHKのプロジェクトXなんかより、よっぽど面白いです!!

また、方法論を試行錯誤させながら、教育をする側も格段に成長し、自らの有する暗黙知を、誰もが理解できる形に明文化・共通化し、それを更に実践することで血肉化していくプロセスは、まさに王道でしょう。

私にも経験がありますが、以前バイヤーになりたての頃、イロハを教えてくれた上司が会社のトップバイヤーでした。彼は独自のマーケティング理論と実体験を踏まえて、たった一人で教育用の育成マニュアルまで作り、ロジックと徹底した体験を通してやる気のある人間なら、ほんの数ヶ月で、すぐにその道数年以上のレベルにまで育てあげてました。
(勿論、やる気があればの話です)

周囲の先輩は、前任者から引き継いだことをダラダラする人達ばかりで正直5年やっても10年やってもスキルがほとんど伸びませんし、業界知識や製品知識も増えません。私もほんの三ヶ月で、あっという間に革製品については社内で一番詳しくなりました。鞣しや革別の特徴、産地、流通過程、業者の力関係等々、どこだって狭い業界です。やれば、一定レベルまではすぐに上達するものです。(その上にいくには、もう尋常じゃないエネルギーと時間を必要としますけどね。)

もっとも私を指導してくれた人物は、仕事もできるし、情熱もあるのですが、それゆえかダラダラ仕事している人が無性に許せないらしく、徹底的に批判しまくって、社内で浮いてしまっておりましたが・・・。

そこまでは行き過ぎですが、私がまさに経験したようなことを企業という組織でやっているのが、実に興味深いし、それをケース・スタディとして社外に公表しているのが実に非凡です!

個々の企業レベルでは、日本の会社って結構持っていたりするんですが、表にというか公の場所には出さないし、出てこないんですよ~ホント。

かつてのGEのウェルチさんとか、ヨダレを出して喜びそうなプロジェクトです。本書を読んでいて、改めて「TOYOTA'S WAY」は、これらを全て取り込んで、更に上をいってるなあ~と感じました。本書は本書で素晴らしいんですけどね。

今の職場は、ベンチャーであることを差っ引いても、社内での情報共有化、末端での士気は、おせじにも高くないなあ~。もっともどこでもやる気の無い人はいるし、使えない人もいたけど、それでも会社としては伸びているのは、やっぱり経営がうまい仕組みを作っていると思いますね。

個人的には、新規事業や業務フローを長年作ったりしてきたので仕組みを作る仕事って大好き! 小さい会社だったし、自分の部署が社長直属だったから、常に経営視点で眺めてこれたのは幸いだったかもしれません。

現場での抵抗を受けながらもプロジェクトを進めるプレッシャーは、企業規模が大きくなるに比例して増大するだろうから、本書の人達は、並々ならぬ苦労されたんでしょうね。いやあ~、本書の端々にもそれらが伺われます。だからこそ、より実際的で参考になると思います。

そういやあ~コンサルティング会社の奴も以前言ってました。とにかく現場の古株の方々が、新しい試みを試す前から否定し、業務フローを変えようとしない。ちょっと前の言葉でいうなら、『抵抗勢力』であり、彼らをいかにして押さえ込むかが、業務改善・経営の効率化を実現するか否かのポイントだとネ。

私も相当苦労したクチですが、大変勉強になりますね。その後、中国や韓国の人と仕事した時にも、勉強になりましたし・・・。

うっ、余談が過ぎましたが、一時大量に出回っていた中身がなく、うわついた理想論だけのナレッジマネジメントではありません。泥臭い、現場どっぷりの中で生み出された汗の結晶みたいなモノですね。

一例ではありますが、それをすぐに自社で使えるわけは当然ありません。でもね、自分のところで腹をくくって、失敗する場合の責任をかぶってでも変革しようと思うリーダーには、きっと得る所のある本だと思います。辛いですよ~想像以上に。

楽したい方には、絶対に不向きなお話です。でも、私はこういうの好きなんですよ~(笑顔)。個人的には、強くお薦め!!
【目次】
序章 なぜ会社のノウハウをさらけ出すのか
第1章 顧客にいちばん近いところ
第2章 人ベースでの変革に取り組む
第3章 社長直轄「SSTプロジェクト」の誕生
第4章 何ができるか、何をすべきか
第5章 活動の基本設計が決まった
第6章 プロジェクトが本格的に動き始めた
第7章 第一サイクルの終了とその検証
第8章 追加された新たな使命
第9章 プロジェクトは「個人の知」を「組織の知」へと変えた
第10章 SSTが現場に定着させたこと
第11章 日本ロシュのナレッジ・マネジメント
終章 企業を変えた「知の共有」が始まった
「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす―日本ロシュのSSTプロジェクト(amazonリンク)
posted by alice-room at 20:58
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