2005年05月19日

「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子 角川書店

bokee.jpg日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞受賞作。私が一番信用しない賞達のタイトルが付いていてまず、避けて通るはずの本のなのですが(天邪鬼でして…)、ふと目にしてたまたま手にとって見ると、これが思わずいける。本自体は幾つかの短編が入っているのですが、このタイトルの小説が巻頭にあり、これがもう凄い!

いやあ~日本人が書く怪奇小説だったら、こういうのでなければと思うのがまさにコレ。どろどろグチャグチャの日本という(島国)稲作農耕民族の土着気質から生まれる、粘着質の風土病的作風に、女性特有の「恨みま~す」的怨念志向が絶妙の配合で加わった熟成物です。表面上はさらっと書かれていますが、内実は発酵して腐りかけてるようなもの。欧米系の怪奇小説にはマネしようたってできない作品ですね。横溝正史氏の八ツ墓村のようなものです。もう、本当にドロドロします。

娼婦が客に寝物語で話すという冒頭からして正統派怪談なんですが、語られる女性の一生がいかにも救いようがなく、女郎に売られた今が一番幸せな状況というのが本当にリアルです。いかにも日本の農村で、さもありなんっていうモノ。映画の「楢山節考」とかで出てくる、まさに水呑百姓とか下女・下男の世界。名著「東京の下層社会」とかでも描かれていますが、現在が特殊なだけでつい最近までの日本の社会は、想像を絶するものだったようです。

で、そういった状況から必然的に売られて女郎になるのですが、その売られるまでの話がなかなか興味深い。村という閉鎖的な空間で禁忌に触れる存在であったわけで人々から忌み嫌われる理由が明らかにされていきます。片親の家庭で母の仕事が間引き専門の産婆となれば、もう誰が言わずとも鬼女です。母が鬼女でその娘なんですから…この女郎の立場たるや想像に難くありません。これが中世の西欧なら、紛れも無く魔女です。やってる仕事も社会における存在意義も一緒ですしね。私的にはどっちも一緒ですね。

うまく説明できないんですが、日本の誇る怪談の一つとして挙げてもいいと思います、絶対にこれ名作として残ると思いますよ~。ただ、時代が現代だけにどこまで、それを理解させるかは難しいところですが…。心ある人ならば、好き嫌いはあっても素晴らしい作品だと認めてもらえる作品です。ここ数ヶ月の中ではダントツでお薦めします!!(但し、あくまでも由緒正しき怪奇小説ファン向け。リングとか読んで喜んでる人には、理解不可能かと)

久しぶりに暗~く陰鬱な気分になりました。なんか重~くもたれる感じ。最後に、しっかりオチがついているのがまだ、救われますけどね。後書きで荒俣氏は、それを逆にマイナスと評価されてましたが、それには異議有り! 少なくとも怪奇短編小説なら、本来小説下手の荒俣氏よりもこちらの著者の方が上です。技量は。勿論、知識やうんちくではたちうちできませんが、ホラー小説大賞の選者より、候補者の方が小説家としては上でしょう。今回ばかりは。

荒俣氏のホラー好きは有名ですが、私はこの著者を強く押します!! 確か文庫もありますから、これだけはお薦め。もっとも、ある程度、この手のノリが分かる方ね。分からない人には分からないから、この手のって。

ついでに日本の下層社会がどんなもんだか理解するには、紀田順一郎氏の下記文献もお薦め。3日に一度、強姦にあうのが日常って想像つきます? 近親相姦が普通に行われる家庭。残飯を購入して食べる人々。少し前に海外旅行記読んで、残飯にもランクがあり、軍の残飯が一番栄養価が高くて高級品という文章を読んだことがあるが、日本でも遠い昔のことではなかったそうです。この本を読んでていて妙に納得した覚えがあるなあ~。人生なんて、まさにうたかたの夢の如し。

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posted by alice-room at 21:59
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